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落石事故訴訟と頭部強打時の対処

SBC に2005年10月6日にあった乗鞍岳での落石事故が訴訟になったニュースが流れました。

中学集団登山落石で負傷で提訴市は争う姿勢
(04日18時52分)
集団登山で頭に落石を受けたのに歩いて下山したのは学校の判断ミスだったなどとして元中学生の少年と両親が松本市に損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が開かれ市は全面的に争う姿勢を示しました。

   norikura.gif

この事故は2005年10月北アルプスの乗鞍岳に集団登山していた松本市立清水中学校の生徒の列に直径およそ1・5メートルの石が落ち4人がけがをしたものです。

脚の骨を折るなどした3人はヘリコプターで運ばれましたが男子生徒は自力で下山しその後頭の中に出血があったとして9日間入院しました。

元中学生の少年と両親は「急な坂道を歩かせたことは死にもつながりかねない判断ミスだった」などとして市に220万円の損害賠償を求めています。

きょう開かれた第1回口頭弁論で市側は事故当時頭の出血を判断することは難しく男子生徒も自主的に下山を始めたなどととして全面的に争う姿勢を示しました。



引っかかったのは、事故時、頭部を強打している生徒を歩いて下山させていること
詳細がわからないので少し調べてみました。

以下は、信濃毎日新聞をクリッピングしたサイトからの転載。


六日午後零時半ごろ、長野と岐阜県境の北アルプス乗鞍岳・剣ケ峰(標高三、〇二六㍍)頂上付近で、登山道を擦れ違うように上り下りしていた松本市清水中学校二年生の集団に、直径一・五㍍ほどの岩が落ちてきた。

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落石を受けた同市県、下平友理さん(13)が右足太ももの骨を折り、同市蟻ケ崎、小岩井悠太君(14)が頭を強く打ってともに重傷。ほかに男女各一人の生徒が足を擦るなどの軽いけがをした。

引率教員が現場から携帯電話で松本広域消防局に通報。下平さんと軽傷の二人は県警と県のヘリコブターで松本市内の病院に運ばれた。小岩井君はほかの生徒たちと自力で下山後、不調を訴えて東筑摩郡波田町内の病院に運ばれた。     平成17年10月7日(金) 信濃毎日新聞 掲載




訴状を見ていませんので、わからない点は多々あるのですが、報道から感じる松本市の反論「事故当時頭の出血を判断することは難しく男子生徒も自主的に下山を始めた」はかなり引っかかります。要点は以下の2つです。
 1)中学の学校登山で自主的な下山などあるのか?
 2)頭部強打時のイロハを知らない?


常識的に考えて、中学生のような未成年それも学校行事で自主的な行動はありえないでしょう。想像しますに、本人がその時は「大丈夫だと思います」と言ったのかも知れません。ですから、2の頭部強打時のイロハを知らない先生であれば、「当人が大丈夫だといって、歩いたじゃないか」という感想を持つものです。

しかしながら、頭部強打時の対処を知っている人であれば、「本人が大丈夫といっても、それを真に受けない」という対応を取ります。これが基本です。最低でも数時間は安静にして、動静を見守ることが必要ですし、できるなら、すぐに脳神経外科でCT を取るべきです。たいした金額はかかりません。

松本市は「事故当時頭の出血を判断することは難しく」ということが反論になると思っているようですが、むしろ逆で「脳内の出血は外からではわからないからこそ、安全のマージンを取った事後対処が重要」という理由にしかなりません。


今回のケースで疑問なのは、ヘリコプターが来ており、他の怪我の生徒を搬送しているのに、頭部強打した生徒を、なぜ乗せなかったのだろう? ということです。頭部強打時のリスクの大きさを理解していれば、搬送させるはずですので。もしヘリコプターの定員の関係で、優先順位を付ける必要があるなら、大腿骨骨折の女子生徒と、頭部強打の生徒でしょう。他の軽傷者は、すぐに死ぬようなことないのですから。


さらに、疑問なのは、その場にいた先生が頭部強打後の対処を知らなかったとしても、学校登山であれば、保健の先生なども一緒にいるはずです。無線で一報を入れて、指示を仰げば、「念のため搬送させなさい」とするはずです。なぜなら、頭部強打によって起こる急性硬膜下血腫のような症例は、受け身がうまく取れなかった場合など、柔道でも発生しており、それはよく知られた事実だからです。

中学校では柔道の授業がありますし、当然、その際のリスクも保健の先生や体育の先生であれば、よく理解しているはずです。よって、頭部強打時の安全のマージンを取った対処も知っていてしかるべきですから、そうした先生に指示を仰げば、自力下山させることはなかったのではないでしょうか。


■snowboard と頭部強打■
snowboard をする人にとって、頭部強打といえば、逆エッジでの後頭部強打です。snowboard が急速に広まった90年代半ばには、初心者が転倒、頭部強打、そして急性硬膜下血腫で何人も亡くなり、社会問題化しました。このリスクは今もあります。リスク軽減の一つは、ヘルメットを被ることです。こうした事故を、間近で見てきましたので、キッズにsnowbooard を薦める気にはなりません。まずはski を行い、身体がしっかりしてからで十分です。

この頃の悲惨が状況については、岐阜県白鳥町にある鷲見病院の先生が、本人もsnowboard をされることもあり、また白鳥町周辺にあるスキー場の怪我人が、ここの病院に搬送されることもあり、以前より精力的な啓発活動をされていました。ある女性が亡くなった記録がサイト「微笑みの中で」にありますので、snowboard の逆エッジおよび急性硬膜下血腫のリスクをご存じない方は、ぜひお読み頂ければと思います。


頭部強打時の留意点を書いておきます。

一時的な健忘症はよく出る症状ですから、周囲の人が注意深く観察し続けることが大事です。数時間してから、急激に容体が悪化することは普通にあります。以下の症状は、注意すべき兆候です。
 ・頭痛がひどくなっていく
 ・食べていないのに吐き気や嘔吐感が何回もある
 ・話しかけないと寝てしまうし、なかなか目が覚めない
 ・モノが二重に見えたり、よく見えなくなったりもする
 ・痙攣が起こる
 ・熱が高くなっていく
 ・手足がしびれたり、動かしにくい


硬膜下血腫も、急性のものと慢性のものがあります。事故後、数時間で死亡するのは急性のほうです。慢性のほうの事例をいえば、たとえばお婆ちゃんが、家の中でつまずいて転び、頭部を畳で強打。大丈夫で良かった・・・・・・と言っていて、数日経ってから、何か変、という症状がでたりすることがあります。

これは、出血が非常に少しずつであったため、血による脳の圧迫がゆっくりなされ、結果、症状が時間をおいてから出た、ということです。脳味噌は豆腐のように柔らかいので、非常にゆっくりした変化には対応するのです。手術は頭蓋骨をドリルで穴を開け、溜まった血を出すというものになります。

今回の中学生は非常にラッキーだったと思います。脳内での出血量が非常に少しずつであったので、数日してから症状がでたのですから。最悪の場合、下山している途中で症状がでて、亡くなっていても不思議でありませんでした。

 
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tag : 落石硬膜下血腫

白馬大雪渓登山ルート再開にあたって

毎日新聞に白馬大雪渓登山ルート再開のニュースが流れていました。

登山道きょう再開 北沢・信州大名誉教授「再発の可能性低い」
9月3日15時1分配信 毎日新聞
 2人が死亡した白馬村の北アルプス・白馬(しろうま)岳(2932メートル)の大雪渓土砂崩落事故で、同村は2日、登山道の通行禁止を3日から解除することを決めた。北沢秋司・信州大名誉教授(治山・砂防)らが2日に現地調査し「現場は落ち着いた状態。大規模な崩落が再び起きる可能性は低い」と判断したため。一方、「雨量による一律の入・下山禁止は困難」として勧告措置の導入は見送った。
 名誉教授によると、今回の崩落は当初「崩壊型地滑り」とみられていたが、調査の結果、大小の岩が大量に崩れ落ちる「岩屑(がんせつ)崩れ」だった可能性が強まった。豪雨により地下水が斜面から噴き出したことが引き金になったという。当面は監視員として登山ガイドらが現場付近の登山道で落石への注意を呼びかける。【光田宗義】 9月3日朝刊



現地調査が行われたようで何よりです。過去の流れからみれば、この北澤秋司氏はもうひとつ信を置けない(簡単にいえば御用学者っぽい)わけですが、発表の通り「岩屑崩れ」の可能性が高いという言葉を信じてみましょう。

そうしますと、今回の崩落は「豪雨を原因とする、ある特別な状況に現場が曝されたがゆえに発生した」と考えるのが自然でしょう。であるとするならば、監視員を今回の現場に配置することが、妥当な対応策と言えるのでしょうか?

「大雪渓ルートの再開を急いでいるのは、商売優先だ」という声があります。もし、同じ場所で、ごく普通にあるタイプの落石での事故があれば、メディアや一部の人は「村は何か対策をしていたのか?」と声高に叫ぶ可能性もあります。それを恐れているのでしょうか。


監視員を、今回の現場に配置する措置は妥当なのでしょうか? この処置を「追求を恐れて」とみることも可能ですし、「優しさ」と考えることもできます。面倒をみてあげたほうがいい、ということなのですから。しかし、これは登山者を大人扱いしない、という話になります。

山岳にはリスクがあり、どの程度のリスクを受容するかは本人が判断する・・・・・これこそが登山という行為の本質です。それゆえ、登山者を大人扱いしない方策は、その優しさとは裏腹に、登山者が育つことを阻害します。

日本ではこうしたお節介型の方策が多いように感じます。Backcountry Riding の世界でいえばニセコなどがその典型になるでしょう。これはいずれ書きたいと考えています。


信濃毎日新聞には以下のような記事がありました。抜粋です。

白馬大雪渓の入山禁止解除 迂回路通り山頂へ
9月3日(水)
 この日の崩落現場はガスに覆われ、視界が十数メートルの時もあった。時折、わずかな時間晴れ上がり、稜(りょう)線(せん)や雪渓が美しい姿を見せた。崩落で埋まった登山道から約50メートル下の迂回路には緑のロープが張られ、「すみやかに通過してください」の看板が立つ。

   監視

 入山禁止解除に伴い配置された監視役の登山ガイド2人は午前7時前に現場に到着。迂回路の入り口と、途中の大きな岩の上に待機して、周囲を見渡した。登山者が来ると「立ち止まらないで通過してください」と声を掛けていた。落石を察知した場合は笛や声で周囲に知らせるという。



このようなことを始めると、落石事故があった場所、すべてで同じように監視員を配置しなければならない・・・という流れに乗ってしまうことに気づかないのでしょうか? 山岳には落石という潜在的なリスクがあり、登山者はそれを前提として、そのリスクを受け入れる必要があるという理解が広まることを、この監視員設置が妨害しています。


もとより、大雪渓エリアは山岳であるということは、村が作成しているデジタルパンフレット『北アルプスアルペンガイド』にも大きく掲載されています。

白馬エリアは、トレッキングと登山が楽しめる山岳エリアです。トレッキングエリアとしては、五竜とおみエリア『小遠見山』まで、八方尾根エリア『八方池』まで、白馬大雪渓エリア『白馬尻(大雪渓ケルン)』までとされ、トレッキングエリアより上部へ立ち入る場合は登山となりますので、十分な装備と知識が要求され危険度も増加します。
 近年、白馬大雪渓では自然崩落による落石事故が発生しております。雪渓上では濃霧時の視界不良による道迷いや、滑落・落石も予想されますので特にご注意ください。雪渓上の落石は、速度が速く音がしないので注意が必要です。



これで十分だと思います。大事な点は、落石の可能性がある場所で、どのような行動がリスクを軽減できるのか、どのような行為がリスクを増大させるのか、具体的なものを啓発することでしょう。

また、ごく素朴な感想としては、監視員に登山ガイドを利用するなんて、なんという人的リソースの無駄遣いをしているのだろうと思います。それなら、大集団のガイドツアーレシオを適正なものにすべく、そちらに振り向けたほうがポジティブでしょう。レシオが適正になれば、その中でクライアントはガイドから山岳のリスクへの対処を学ぶこともできるようになるのですから。


さて、話は最初に戻り、北澤秋司氏の「現場は落ち着いた状態。大規模な崩落が再び起きる可能性は低い」というコメントについて。土砂崩落については語れるほどの知識もありませんので、わからないのですが、事故から二週間も経った後に現場調査をして、その原因等がどの程度把握できるものなのでしょうか?

以前のエントリにあるように、事故直後に現場に入った専修大学の苅谷愛彦氏に調査によれば、落ち残りが指摘されていますし、2006年には同じ場所で土石流が発生している、という事実があります。再び、大量の雨があれば、同じ程度の土砂崩落があってもなんら不思議ではないでしょうね、きっと。

 

tag : 白馬大雪渓

星野監督にみる敗因と分析

北京五輪で惨敗した野球の監督である星野氏が「敗軍の将、兵を語らず」という故事成語を持ち出し記者会見をしたことが報道されています。あちこちのブログでも取り上げられているようです。

『史記』は、日本語の中に取り込まれた言葉や表現も多く、馴染み深いものですが、その背景にある思想は「天道是か非か」であると言われています。天道とは、平易にいえば神様のような存在である「天」の働きを人格的に捉えることで、それが世界全体の秩序を司っていると考える思想。

当時(2000年前)は、天道が正しく働いてくれると信じるからこそ、人間は安らかに毎日を送ることができると信じていたのですが、司馬遷は不遇も受けたこともあり、また歴史をみれば必ずしも正しい者が勝利を収めているわけでもなく、正当な評価を受けていないという事実から、壮大な史書を通して、このテーマを問い掛けているわけです。


敗軍の将、兵を語らず」は、戦いに敗れた将軍は兵法について語る資格はなく、失敗した者は潔く失敗を認め弁解がましいことを言うべきではない、という一種の清さの象徴として引用されることが多いのですが、裏返せば、問題を議論のまな板に載せることを拒む姿勢とも取れます。

「俺達は精一杯頑張ったのだから、それでいいだろう。結果は神のみぞ知るだ。面倒なことをグチャグチャ聞くんじゃない。もう終わったことだ。次に向けて頑張る」という言葉は議論を拒むステレオタイプな表現です。「敗軍の将、兵を語らず」を英語にすると「Give losers leave to speak.」となります。「敗者にも発言を許せ」です。文化の違いを感じざるを得ません。


星野氏の言い訳を聞いていると、山岳で事故を起こした一部ガイドの言い分にそっくりなことがわかります。事故後、現場でいかに救助活動を頑張ったのかだけを強調し、事故原因についてはまったく言及しないというパターンです。

問題を適切に捉え、具体的に対象化し、整理し、言語化し、平易に説明する能力は、教育と訓練によってしか身に付きません。それがなされていないのです。野球の場合、監督という専門職が成立していないのが悲劇的です。現役を止めた選手がすぐに監督をする行為自体が、日本の野球界は監督という職種を専門職として見ていない証明ですから。


日本では、原因と責任をわけて考えるのが苦手な人が多いように感じます。事故原因を考察したとしても、それは責任追及をしているのではない、ということを理解していないと言えます。これをわけて考えることができない、もしくはしないのは、2つの理由に因ると思われます。

1: 人はミスをする生き物であることを理解していない
2: 責任を何しろ負いたくない

1を理解していれば、どのような事故であれ、采配ミスであれ、誰でも(自分を含め)それをおかす可能性があることがわかります。そして、人は失敗から学ぶものです。2については、どうしようもありません。そこに表出するのは、その人の人間性そのものですから。


「人は失敗から学ぶ」という立ち位置にいるのなら、敗者は語る必要があるのです。
 
 

tag : 敗軍の将

白馬大雪渓ルート再開問題

信濃毎日新聞の8月22日に以下のような記事が出ました。

白馬大雪渓ルート入山禁止解除探る 専門家は判断の難しさ指摘
8月22日(金)
土砂崩落のため北安曇郡白馬村が「入山禁止」を呼び掛けている北アルプス白馬大雪渓の登山道について、太田紘熙村長は21日、専門家による崩落現場の調査を早急に行い、安全確認ができ次第、解除する考えを示した。村内では多くの観光客が訪れる人気登山ルートの再開を望む声が上がる。一方で、専門家は入山禁止を解除する判断の難しさを指摘している。 (中略)

 村観光局によると、白馬大雪渓への入山者は7、8月だけで約1万人。9、10月も白馬大雪渓を含む北ア北部の山岳に約7千人が訪れる。同局の松沢晶二次長は「観光全体への波及を考えるとルート再開は早いほうがいい」と話し、太田村長は「再開を望む宿泊業者の声も聞く。2次災害が起きないと判断できれば、解除したい」とする。

 一方、10年余にわたり崩落現場一帯の地質調査をしている専修大学の苅谷愛彦准教授(42)=地形学=は「土砂崩落は標高の高い山の宿命。2次災害がないとは断言はできない」と指摘。20日、崩落現場を調査し、今後崩れる可能性のある土砂を現場上部で確認したといい、「あいまいな情報で登山者を招き入れることは危険。一帯の危険性を十分周知した上で再開すべきだ」と忠告している。



以下のような点で考えてみました。
1:どのような安全確認作業・調査が行われるのか?
2:そもそも安全とは何を想定しているのか?
3:リスク評価はどの程度可能なのか?
4:自然科学と政治経済そしてメディア
5:行動マネジメント
6:まとめ


1:どのような安全確認&調査が行われるのか?
ヘリコプターからではなく、当然、現地調査が必要でしょうから、それがきちんと実施され、調査内容が公開されるのかが興味あります。現時点で、信頼できるソースといえるのは、現場に行かれた苅谷愛彦氏の言葉でしょう。「今後崩れる可能性のある土砂を現場上部で確認した」とありますから、それに対するリスク評価が待たれるところです。

2:そもそも安全とは何を想定しているのか?
2005年の杓子岳側の崩落の際もそうでしたが、行政が発する「安全宣言」なるものが理解できません。地質および地形を考えれば、潜在的なリスクがある場所なのですから、できることは、2つしかないと思います。

一つは、そのリスクがどの程度の大きさになっているのか、もう一つは、リスク軽減の行動を人間側が何か取っているのか。さらに、今回の事故と関係あるエリアのみを考察するのか、それとも山域全体として考えるのかでも異なってきます。


3:リスク評価はどの程度可能なのか?
資料がないかと探したところ、建設省河川局砂防部が作成した「土石流対策事業の費用便益分析 マニュアル(案) 平成12年度版」という文書がありました。

ここでは、全国の確率雨量と比較し、2年~20年超過確率以上の降雨によって大部分の土石流が発生していることから、マニュアルでは10年超過確率以上の降雨によって土石流が発生するものと仮定して対策工事等を考える、としています。以下のグラフは、平成4年以降5ヶ年に全国579渓流で発生した土石流時の時間雨量、日雨量です。
土石流発生雨量

また、地すべりについても「地すべり対策事業の費用便益分析 マニュアル(案)」があり、発生規模と頻度の設定について、以下のような記述があります。

地すべりは降雨や地下水の変動などを誘因とする自然現象であり、同様の誘因が発生した場合であっても地形や地質の素因の違いにより、発生規模や頻度は大きく異なる。

地すべり災害の発生規模と頻度との関係を評価するための手段には、素因の違いを考慮しながら災害実績を評価する方法と、地すべり運動をモデル化し数値シミュレーションなどによって評価する方法が考えられる。

しかしながら、国内に分布する地すべり地では、地すべり対策の効率性などの観点から、地すべり地内においてなんらかの変動が見られた場合には、速やかに地下水排除工などの応急対策工事が実施されるため、対策工事が実施されない場合の被害の実態を把握することは困難であり、従って、災害実績から地すべり災害の発生規模と頻度との関係を評価することはできない。

また地すべり運動をモデル化し、現在までに得られた降雨などの誘因とその発生規模などの資料をもとに解析を行う場合には、地すべり運動に係わる地質定数(透水係数、内部摩擦角、粘着力)を代表値でシミュレートせざるを得ず、実際に発生した土砂移動現象の規模と異なる場合も考えられる。

さらに地すべりの移動土塊は、通常であれば地すべりブロックの2倍の範囲で停止するが、移動土塊が沢などに流入した場合には、土塊は流動化し地すべりブロックの2倍の範囲を超えて停止する場合もある。このような場合にも、想定した地すべり災害の規模は実際に発生した地すべり災害の規模と異なることとなる。

以上のように、地すべり災害は発生規模と頻度との関係を設定することが困難であり、河川のように降雨の規模に応じて洪水の規模が定まり、従って災害の規模も決められるという現象ではない。

このような地すべりの特性から、従来地すべり対策において、被害発生確率、あるいは被害規模を想定することは行ってきておらず、経験的に想定される最大規模程度の日がい想定区域を想定し対策を行っていた。




こうして同じ対策費用便益分析の書類を見ると、地すべりと土石流で観点が異なっていることが興味深いです。土石流は発生確率論を用い、地すべりは応急対策をすぐにしてしまうので、わからない、と。こうなりますと、土砂崩落の発生リスク評価には、土石流的な視点、つまり降雨量などを目安にすることが考えられますね。とても大雑把な指針となるでしょうが。


4:自然科学と政治経済そしてメディア
自然に身を曝す人は、自然を理解する以上に「人間を見抜くことが必要」であるように思います。たとえば、自然科学者と研究者はイコールではありません。研究者という大きな枠の中に、自然科学者もいるし、おかしな研究者もいる、ということです。自然科学者は自然現象に対して誠実ですが、おかしな研究者は、事実よりも資金提供者に都合の良い発言をします。

特に自然災害系(土砂崩落、地震、雪崩等)は、再現性の問題や定式化が困難であることから、権威主義的なものを背景としておかしな人が跋扈しやすい土壌であることを、ユーザーは理解しておいたほうがいいと思います。


行政には専門性がありませんから、その言質を専門家に求めます。これはメディアも同様です。「○○という専門家にお願いした」からという理由により、行政とメディアは判断の責任から逃れることができると考えます。しかし、○○という専門家を選んだ、という選択に関連する責任は生じます。

これに対し、行政やメディアは「○○さんはこの分野の権威ですよ。それを否定するのですか?」という形の反論をします。しかし、いかに権威だろうと、現地をヘリコプターから眺めただけで、土砂崩落の調査はできないものです。もし、ヘリからの視察だけで、安全宣言が出されるようであれば、それは、単に「政治経済の都合」のため、行政が専門家という肩書きを使っただけの話です。そして、そのシナリオに乗った時点で、その専門家は自然科学者ではないということです。


こうした状況を簡単に例えれば、2ch を読む時のようにメディアの報道を読み、専門家の発言を吟味する、ということかと思います。ウソを嘘と見抜けない人に、2ch は厳しいメディアですが、基本的に自然災害に関する情報は、そのようなスタンスでいることが大事に思います。

それゆえ、誠実な自然科学者であればあるほど、社会と対決せざるを得ない局面に立たされることとなります。その典型的な事例が、地球温暖化問題でしょう。赤祖父俊一氏の本を読めば、自然科学者としての義憤が、本を書いた動機であることがわかります。



5:行動マネジメント
上記に取れることは2つと書きましたが、その片方である人間側の問題です。土砂崩落した場所が少し落ち着いたとしても、他の場所も含めて落石などのリスクがある場所ですから、どのようなリスク軽減行動を取るのか、というのが大事でしょう。

先のエントリに事故現場の写真が載っていますが、たとえば、リスクが低い場所(植生が残っている所)からリスクが高い場所(沢状のガレ場)を横断する際、どのような行動を取るか、というテーマがあります。欧米の標準的なガイディングであれば、「人と人の間隔を開けて素早く渉る」が鉄則です。

それゆえ、落石そのものは山岳リスクの一つに内包されますが、基本行動様式を外していて事故となった場合には、ガイドはその責任を免れません。しかし日本の山で目にするのは、数珠繋ぎで渉っているガイドツアーであったりします。

上記記事でコメントを寄せている苅谷愛彦氏(専修大)が興味深い研究を行っているようです。「白馬大雪渓における画像データロガーを用いた落石と登山者行動のモニタリングの試み」と題されたペーパーは、落石の挙動について画像データを用いて解析しようとするものです。

はじめに
長野県白馬村白馬尻と白馬岳山頂を結ぶ白馬大雪渓ルートは北アルプスの代表的な人気登山路である.しかし大雪渓の谷底や谷壁では融雪期~根雪開始期を中心に様々な地形・雪氷の変化が生じ,それに因する登山事故が例年起きている1).特に,広い意味での落石 ―― 岩壁や未固結堆積物から剥離・落下・転動した岩屑が谷底の雪渓まで達し,それらが雪面で停止せず,またはいったん停止しても再転動して≧1 km滑走する現象 ―― は時間や天候を問わずに発生しているとみられ,危険性が高い.大雪渓のように通過者の多い登山路では,落石の発生機構や登山者の動態などを解明することが事故抑止のためにも重要である.本研究では,大雪渓に静止画像データロガー(IDL)を設置し,地形や雪氷,気象の状態および通過者の行動を観察・解析した.




今後は動画での記録・解析も考えているようですから、実現されれば、単に、落石の発生頻度や挙動のみではなく、登山者がどのような行動マネジメントをしているのかも、如実にわかるようになるのでないかと期待されます。ガレ場や雪渓上にある石が動き始めることは、確率論的なものにならざるを得ないことを考えれば、リスク軽減の行動がいかに重要であるか理解できるかと思います。その意味で、実態調査がきちんとされれば、それは大きな意味を持つことになります。


6:まとめ
白馬大雪渓ルートの再開には、現地調査がきちんとなされ、その具体的内容が広報されてほしいと思います。もともと落石事故のある場所ですし、事故を区分し、整理することも必要なのではないでしょうか? それが行われているのか、されていないのか、当方は知りません。

たとえば、落石であっても、自然発生であったのか、それとも人為が関与している可能性があるのか、また単一の岩の落下なのか、土砂崩落のような形での流下なのか、といったように、整理可能であろうと思います。他にもいろいろな視点はありうるでしょう。

それがなされることで、崩落事故が山岳リスクに内包されるものなのか、それとも人的なものが関与していて、事故を避けるもしくはその規模を小さくすることができた可能性があるのか、そうしたことを考えることができると思います。

Red Bull ヨーロッパでの攻防

食品安全情報blogRed Bull の情報が掲載されていた。オリジナルソースに当たっている時間がないので、引用のみ。

2008-08-21 その他のニュース
・オーストラリアと米国の新しい研究でエネルギードリンクに疑問 一部の人に有害である可能性



2008-08-19 その他のニュース
・ヨーロッパ裁判所が健康上の懸念によるRed Bullの禁止を支持
European court backs ban on Red Bull over health concerns
Monday, 18 August 2008

ヨーロッパの最高裁判所がフランスによるRed Bullの禁止を支持したことから、健康への懸念に関する議論が沸騰している。Red Bullは何人かの死亡事例との関連が示唆されており、専門家はカフェインなどの刺激物質を高濃度に含むことを批判している。



以前「Red Bull のRisk」というエントリを書いたが、フランス国内での販売について間違った可能性(販売禁止を販売していると書いた)。先のエントリにも書いたが、日本では小さく注意書きが入っているものの、通常のソフトドリンクと並んで販売されており、陳列方法と店員への教育は必要と思われる。ちなみに、日本ではこんなスキーヤーもいるようだ。

レッドブルウォッカを飲みすぎてふらふらになりました。
一緒に写真をとったのはレッドペッパーガールズとかいう二人組み。悩殺されました。



 

tag : RedBull

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