メットスキーってなに?
今年の冬は「メットスキー 好き!」
このポスターのコピー、なんだかわかりますか?
「メット」とはヘルメットのことで、スキーやスノーボードを安全に楽しむために、また、新しい雪上スポーツのファッションとして定着させようと日本スキー産業振興会(小賀坂道邦会長)が提唱、これにSAJをはじめ(社)日本職業スキー教師協会、(財)日本鋼索交通協会、全国スキー安全対策協議会が賛同してご覧のポスターの誕生となった。
モデルはスキーヤーとして、またモデルとして活躍中の松本悠佳(ゆか)さん。このポスターが、今年の冬は各地のスキー場やスキー学校で見かけることになるかと思うが、彼女も「これからはメットで安全にカッコよくスキーを楽しみましょう」と訴えているように、今年の冬は「We Love Met Ski」を合い言葉に、メットを着用してゲレンデに出よう。
しかし、なんというキャッチコピー。
しかし、なんというベタなプロモ。
SAJ らしい、日本らしいといえばそれまでですが。
モデルの松本悠佳さんはブログがあるようです。こちら。
ご本人は、まだヘルメットを普段、使用されていないようですね。
今シーズンは、当然、率先してヘルメットを着用されるのですよね、きっと。
米国ならもっとトップアスリートを使うでしょうね。
たとえば、Shaun Wihte とか。
効果違いますから。
当人は、ヘルメットをオークションして、
収益金をドネーしたこともあったようです。
これも米国的ではありますが。こちら。
日本でしたら、上村愛子さんが適任だと思うのですけどね。
普段からヘルメットを着用している。
そして、優れたアスリートでありますし。
■データはいずこ?■
さて、日本的なるものの、もう一つの特徴が、啓発事項であるにもかかわらず、ヘルメット着用がいかに大事であるのか、データが示されていないこと。ヘルメットをかぶると「ファッションとしてかっこいい」の以前に、「なぜ、それが推奨されるのか?」という一番大事な点がまったく書かれていないし、SAJ のサイトにもそれが載っていません。
というわけで、少し情報を。ググればすぐでてくる程度の話ですが。。。
「Snow Boarding Head Injuries Increase; AANS: Wear a Helmet」に、2006年からの消費者製品安全委員会(CPSC: Consumer Product Safety Commission)の統計概算値がでています。わかりやすいようにグラフにしました。

また、米国整形外科学会(AAOS: The American Academy of Orthopaedic Surgeons)では、ヘルメットの使用を推奨しており、Position Statementを発表しています。Position Statementとは著者の意見に基づく教育的な声明です。いわゆる査読された論文のようなものではありませんが、読者は、その内容を考慮して、自身の行動判断に役立ててほしい、というタイプの声明です。以下、ざくっと抜粋。ソースはこちら。
・スキーの怪我発生率は、近年、減少している。
・一方、重傷の相対的な割合は増加している。
・米国では、毎年20~30人がスキーで死亡している。
・下肢の怪我は、しばしば用具が関係している。
・このような怪我の頻度は、研究と用具の改良で減少している。
・上体および頭部の怪我、そして死亡が比較的減少していない。
・消費者製品安全委員会(CPSC)によれば、
男性スキーヤーは女性スキーヤーより、頭部外傷の発生が50% 高い。
・スノーボーダーは年配のスキーヤーより3倍、頭部損傷の発生率がある。
・スキーヤーの最も一般的な原因は、固定物(たとえば木)との衝突である。
・スキーの怪我は一日の終わりに発生する傾向があり、頭部損傷も同様。
・頭部外傷は、午後、より頻繁に起こる。
・怪我の頻度と時刻は、疲労が重要な要素であることを示唆する。
・死亡は経験豊かなスキーヤーにより起こる傾向がある。
・これはスピードが重要な要素であることを示している。
・頭部外傷の発生率は増加している。
・最も考えられることは、斜面整備の改善が滑走速度を上げていることである。
・ヘルメットの目的は、衝撃を吸収し、そのエネルギーを吸収することである。
・ヘルメットは怪我のリスクを減少させないが、程度を減少させることはできる。
・調査により、27件の死に至った頭部外傷において15件の頭蓋骨骨折が判明。
・この内、6件では骨折の程度が弱まっていた。ヘルメットの効果が示唆される。
・スウェーデンでの最近のいくつかの研究によれば
ヘルメットの使用が、頭部外傷をおよそ50% 減らしている。
・サイクリストのヘルメット使用により、ひどい頭部損傷は70% 減っている。
消費者製品安全委員会(CPSC)は以前より、ヘルメットの使用について調査を行っており、1999年1月には、「Skiing Helmets An Evaluation of the Potential to Reduce Head Injury」というレポートもでています。興味ある方はどうぞ。また、SAM(Ski Area Management)というスキー場業界向けの雑誌では、ヘルメットに関しては度々書かれており、サイトで過去記事を読むこともできます。こちら。
日本では、全国スキー安全対策協議会というスキー場の業界団体があり、基礎調査はしていますが、上記のような詳細なデータは掲示されていません。調査内容はこちら。
■最後に一考■
ヘルメットは頭部損傷を軽減することができますし、最近のものは軽量化がされていますので、かぶっていてもあまり違和感がありません。馴れてしまえば気になりませんし、暖かいというメリットもあります。
大事な点は、ヘルメットは頭部損傷リスクを軽減しますが、頸椎は保護してくれない、ということです。頸椎を痛めれば、最悪死亡、助かっても一生寝たきりも、ごく普通にあり得ます。キッカーで背中落ちし、腰椎を痛め、下半身不随という事例も日本でもあります。
さらに、日本のスキーパトロールの教育システムやプログラムが未成熟であるため、バックボードやCカラーさえないようなスキー場があります。つまり、頸椎損傷が疑われるケースでも、適切な搬送が期待できない、ということです。これはいずれ書こうと思います。
米国整形外科学会のPosition Statement の最後には、ヘルメット着用の法的な義務化についても触れられていますが、これはアメリカ的だなと感じます。Backcountry Riding のような世界からみますと、そこまで個人の選択肢を社会が決定し、狭めていくようなトレンドについては、正直、勘弁してほしいなと。
Risk をなるべく客観的に提示する、それをどの程度受けいれるのか、それについては、個人の選択を尊重する・・・・そのようなプロセスを許容できない社会には、Backcountry Riding のような世界は成立しないですからね。