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安井至氏があちら側にいってしまった件

ごくまともな研究者が何かのきっかけであちら側にいってしまうということは意外とあるもの。マイナスイオンを批判している頃は、まともだった。『水からの伝言』あたりでちょっと怪しい感じになってきた。「反証実験をすべき」と主張し、apj氏に「そんなものいらんだろ」と言われていた。

そして、地球温暖化問題がヒートアップしてくるにつれ、急速劣化というか、馬脚を現すというか、はたまた信仰心の虎の尾を踏まれたのか、もう意味不明状態。たとえば武田邦彦氏の本を「読まずに批評」し、サイトに掲載。「それはいくらなんでも不適当でしょう」というブログ読者からの突っ込みに「読まなくてもわかる」と豪語。

確かに、武田氏の本は、不適当と思われる表現や問題ある数値の使い方があるのは事実だけど、それで全てが埋め尽くされているわけでもない。是は是非は非として、批評していくのが「大人」の振る舞い。同じ頃、割り箸問題でも林業系について基本知識がないにも係わらず、断定的に記述し、突っ込まれていた。これも妥当な回答をしないままブログ放置。

その後、迷走エントリをいくつか書いていたものの、今度は丸山茂徳氏の本について、見事なエントリが立っていた。まず、本のまえがきについて書いている。

現在の日本で、もっとも過激な反IPCC論者は誰か、と言われれば、それは、東京工業大学の丸山茂徳教授なのではないか。

 たまたま本屋に行ったら、「科学者の9割は地球温暖化CO2犯人説はウソだと知っている」という超刺激的な題名の本を発見。宝島社新書だからそんなものだが、題名で売ろうという魂胆丸見えの情けない本であった。

 その論理の正当性・不当性を解析してみたい。
 ISBN978-4-7966-6291-8、648円+税、2008年8月23日第1刷


-------------------------------------------------------------
C先生:これまで、丸山氏の論理を解析したことは無かったので、良い機会だ。

A君:「まえがき」がこんな刺激的な記述で始まります。

 「2008年5月25日~28日、地球惑星科学連合会(地球に関する科学者共同体47学会が共催する国内最大の学会)で「地球温暖化の真相」と題するシンポジウムが開催された。その時に、過去50年の地球の温暖化が人為起源なのか、自然起源なのか、さらに21世紀はIPCCが主張する一方的温暖化なのか、あるいは、私(丸山)が主張する寒冷化なのか、そのアンケートを取ろうとした、ところがその時次のような発言が飛び出した。『このアンケートを公表したりして、何かを企む人が出るのではないか』。
 これには驚くだけでなく、今日の温暖化狂騒曲を作りだした問題の本質があるという実感を得た」。

 (一行省略)
 「学会の数は、今日世界全体で約2000に達している。これらの科学者共同体は、趣味の会ではなく、巨額の国民の税金の上に成り立った公的役割を担い、研究の最前線を社会に伝える責任を負っている。その責任を多くの科学者が忘れているのである。
 彼らは科学者を「社会で選ばれた知的遊民」であると考え、「社会が科学者に無償の奉仕をするのは当然」であり、「それに応える社会的責任などはない」と思っている」。

 「シンポジウムで行われたアンケートによれば、「21世紀が一方的温暖化である」と主張する科学者は10人に1人しかいないのである。一般的にはたった1割の科学者が主張することを政治家のような科学の素人が信用するのは異常である。科学の世界に閉じた論争では、少数派の説ではあっても、ガレリオが唱えた地動説の例のように、後に真偽が逆転することもある。しかし、科学の世界だけでなく、社会まで巻き込み、毎年数兆円に上る巨額の国民の税金を投資する場合は違うであろう。たった1割に過ぎない科学者の暴走を許してしまった科学者共同体の社会的責任は大きい。
 またそのアンケートで10人のうち2人は「21世紀は寒冷化の時代である」と予測する。予防原則に従って、地球温暖化対策を正しいと正当化する科学史家が少なからず存在する。これは間違いである。もし予防原則に従うならば、寒冷化対策の方がはるかに深刻で重要であろう」。

 「そして、21世紀の気候予測について、残りの7人は「わからない」と答えている」。


A君:突っ込みどころ多々ですが。

B君:まず、アンケートの本文が出ていないのが問題。実際、アンケートの結果を参照するときには、その正確な表現を示した上で議論すべきだ。

A君:アンケートに答えるときには、本当に、気を使いますからね。この本の記述から推測すれば、多分、こんな風だった。

(1)「21世紀が一方的温暖化である」
     10人中1人
(2)「21世紀は寒冷化の時代である」
     10人中2人
(3)「わからない」
     10人中7人



アンケート本文を知りたければ、問い合わせるのが「まとな大人」の行動ですが、安井氏はしません。そしてアンケート内容を、想像しています。いいですか「想像のアンケート文」です。ところが、下では、それが「実施されたアンケート」にすり替わってしまいます。

A君:結論から先に議論していますが、

(1)「21世紀が一方的温暖化である」
(2)「21世紀は寒冷化の時代である」
(3)「わからない」

というアンケートそのものがおかしい。極めて非科学的で、どう回答したらよいか分からない。

B君:「一方的」という限定が付いていれば、それは、「地球の揺らぎは大きいから、一時期は寒冷化するだろう」、という常識的な反応をして、(1)にイエスとは言えないのがあたり前。

A君:どれを選ぶと言われれば、当然(3)。より正確に表現せよ、と言われれば、「確定的なことは言えないが、もしも、温室効果ガスを出し続ければ、当然、温暖化傾向は増大するだろう。しかし、本当に温暖化するかどうか、それは地球と太陽に聞いてみないとなんとも言えない」。

B君:それにしては、(2)が2人もいるのはどういうことだろう。



イタ過ぎる・・・・・・。もう笑い飛ばすしかないでしょう。
「市民のための環境学ガイド」には良い記事も多々あるのですが、
今は昔、もはや安井至氏は完全にオワタ、ということでしょう。


丸山茂徳氏の本のまえがきにでてくる地球惑星科学連合会のセッションは正式には「21世紀は温暖化なのか、寒冷化なのか?」というもので、こちらでabstract が読めます。仮説を述べ、議論するのが科学の流儀ですから、仮説を述べることさえはばかれるようになっていることに、危機感を持っている科学者は結構います。

 
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tag : 地球温暖化安井至

ムペンバ効果の「効果」

お湯が水より先に凍るというムペンバ効果。NHK の「ためしてガッテン」で放映された後、大槻氏の反論を含め、ブログなどを通して議論が起こり、JCAST のカバーした記事が、Yahoo のトップページに掲載されるまでになった。

ムペンバ効果自体は、起こりうる現象(いつも起こるわけではない)だし、まだメカニズムをうまく説明できていないことに変わりない。この現象をもう少し理解するには、かなりしっかりした実験が必要だ。この辺については、apj 氏の以下の記事が、過去のpaper の要約もあり、秀逸かつ信頼できる内容になっている。

 ムベンバ効果調査中(1)
 ムペンバ効果調査中(2):「ためしてガッテン」でどう扱われていたか
 誤解されたので書いておく
 ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告
 ムペンバ効果調査中(4):J-CASTニュースの記事


本日のエントリは、ムペンバ効果がもたらした「効果」ということについて。ムペンバ効果それ自体ではなく、こうした未解明な問題に対して、人がどのように振る舞うのか、ということ。流れを簡単に整理すると以下になるかと思う。

  1: 不確定現象を必ず起こるかのように紹介  →  NHK「ためしてガッテン」
  2: ポイントのズレた単純化した反論  →  大槻氏
  3: ぐちゃぐちゃが始まる  →  ブログ議論
  4: それをメディアがさらに拡大  →  JCAST
  5: 信頼できそうな研究者がズレた発言  →  前野氏(JCASTにて)


話は少し遡り、NHK の放送に先立ち、前野紀一氏がSeppyo-Talk という雪氷学会が運営する一般の方も登録できるメーリングリストで以下のような発言をしている。

Mpemba Effectとは、お湯と水をそれぞれ同じ容器にいれて低温のもとに放置したときお湯の方が早く凍ることがある、という現象です。この現象は西洋では2000年も前から知られていましたが1960年代にムペンバというタンザニアの高校生が「再発見」するまであまり話題になりませんでした。私はその頃カナダの大学にいましたからそれを知っていましたが、自分自身はその詳細を調べることはまったくせず、また日本の雪氷や物理の学界にも紹介することを怠り今日に至りました。

ところが今回NHKからこの現象を「ためしてガッテン」で扱いたいと相談されました。私は初めは反対していたのですが、面白い現象なので、メカニズムについてはまだ信頼すべき精密な測定が行われれていないと説明する、という条件で放映に同調することにしました。

これまでMpemba Effectを調査したという報告は数え切れないほど多数発表されています。しかし、残念ながらどれもこれも厳密さと論理において不満足なものばかりで、素人研究の域をでていません。その理由ははっきりしています。この現象には多数の物理因子が関係しているため、科学的に満足な調査をするためには相当周到な研究が必要だからです。温度や容器だけをパラメーターにする素人研究では絶対解明できない難問です。しかし、それにもかかわらず、素人でもまた子どもでも挑戦できる点が、この現象の魅力でもあります。

 [Seppyo-Talk 851]7月6日配信より抜粋引用、強調は引用者による



重要な点は、引用文内で強調した以下の2つであるように思われる。
 1: 放送にあたっては未解明の問題である注意喚起が必要と指摘した
 2: 発表されているpaper は素人研究の域にあると考えている

前野紀一氏が、注意喚起したのは、専門家として「未解明の要素があるので、メディアの単純化した放送構造には馴染まないであろう」という、ごく常識的な考えだったと思うし、その指摘は正しいと思う。ただし、そうした進言に対し、メディアがこちらの見解を尊重してくれるような存在ではない、という想像力が足りなかったのではないだろうか。

前野氏は、恐らく、もっと強く言っておけば良かった、と後になって思ったのであろう、それが、7月6日のSeppyo-Talk の書き込みに繋がっている。事実、このメールの最初には、次のような言葉が書かれていた。

7月9日(水)20:00-20:45 放映のNHKためしてガッテンで「ムペンバ効果(Mpemba Effect)」が紹介されます。無駄な誤解が生じないよう予め雪氷学会の皆さんに経緯をお知らせしておきます。



この件については、前野氏に対して、多少同情的であるが、NHK は断定的な報道について、反省しているそぶりはない。以下は、朝日新聞に載った広報のコメント

実験を繰り返し、高温水の方が早く凍るということを確認したうえで番組を制作しました。誤解を与えたとは考えていません。
  
 2008年7月31日 asahi.com からの引用




一方で、「いずれも素人研究の域をでない」という2点目については、いかがなものだろう。apj 氏の「ムペンバ効果調査中(3)」のコメント欄に、以下のようなapj 氏からの書き込みがある。

実験するにしても、
S.Esposito, R De Risi, L. Somma "Mpemba effect and phase transitions in the adiabatic cooling of water before freezing", Physica A 387(2008)757-763.
や、
David Auerbach "Supercooling and the Mpemba effect: Whern hot wter freezez quicker than cold", Am. J. Phys. 63(1995)882-885.
の精度は確保した上で、それを越えないと研究としては意味が無いんですよ。でもって氷の結晶ができはじめる時間が本来ばらつくものだというのは、この論文2つで尽きていると思うんですね。追試の必要があるかというと、既に独立に2つの論文が出て同じ結論である上、普段の他の実験の状況とも矛盾しないので、そんなに必要ではない。



ひょっとして、前野氏はムペンバ効果について調べていない、とか・・・・・・。それとも、上記2本の論文も、素人の域をでない、と考えているのだろうか。Seppyo-Talk では、いくつかやりとりがなされたようだが、樋口敬二氏の書き込みも、前野紀一氏と同種のズレを感じる。樋口敬二氏は中谷宇吉郎の弟子であり、雪結晶の研究で成果を残した方である。名古屋市科学館の館長も務めた。以下に引用する。

Seppyo-talk 867 で申したように、日本における「ムペンバ効果」の認識と普及に関するデータを集めておりますが、その中に参考になる情報があれば、順次でお知らせしたいと思っています。

先ず、ご存じの方もあるかと思いますが、物性物理学の金森順次郎さんが「これからの基礎科学」という講演で、「科学の隙間にあるもの」の例として「ムペンバ効果」を挙げておられることです。

昨年3月3日開催の山田科学振興財団の設立30周年記念パネルデイスカッションで、江崎玲於奈、金森順次郎、野依良治、岸本忠三、永井克孝といった錚々たる人達による基調講演の一つとして行われた 金森氏の講演「これからの基礎科学ー国際高等研究所の経験からの管見ー」の中での発言です。

 [Seppyo-Talk 868]7月21日配信より抜粋引用



樋口敬二氏は、この資料を「是非 御一読をお勧めします」としているので、読んでみることした。記事は「ここ」にPDF であるが、ムペンバ効果に記述のみ以下に引用する。

■科学の隙間にあるもの
ここで、その例をひとつあげます。「ムペンバ効果(The Mpemba effect)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ムペンバはタンザニアの高校2年生の名前だったように記憶していますが、彼は熱い水と冷たい水をコップに入れて冷蔵庫に入れたら、どちらが速く凍るかを試しました。誰もが、熱い水のほうが遅く凍ると思うところですが、実際には、熱い水のほうが先に凍ります。

この現象には、過冷却が関与しているのではないか、蒸発が原因ではないか、水素結合でつながった水の分子構造に何らかの関係があるのではないか、などいろいろな議論がありますが、実のところはよく分かっていません。もしかしたら、そもそも水の温度や圧力だけで何かいうのは間違っているのかもしれません。

(中略)

図5は、熱い水を冷蔵庫に入れて冷やしたときの温度変化を示しています。横軸が時間で、縦軸が温度です。実線と点線はそれぞれ高温、低温の水がたどる温度変化の大体の様子を示しています。熱い水を入れたほうが早く氷になるというのは真実のようです。しかし、常に再現性があるかどうかがわかっていないのが、厄介なところです。著作権の関係で実験の図等はお見せできませんが、くわしくはhttp://www.math.ucr.edu/home/baez/physics/index.html/のGeneral Physicsの中のHotwater freezes faster than cold!をご覧ください。

 「これからの基礎科学ー国際高等研究所の経験からの管見ー」から抜粋引用



記事のアドレスがリンク切れており、金森順次郎氏が読まれたのは、たぶん「こちら」の記事だと思う。金森氏の記述は、未解明なことについて言及する際の「細やかさ」というか「言葉の用い方」について配慮が足りないではないだろうか。言い切り型の文章にとても違和感を持ってしまう。


こうした未解明なことについて、研究者と一般の人の間には、理解の仕方が異なってくる。それは前提が異なるからであろう。よって、研究者側がかなり発言に注意しないと、無用の誤解の原因となっていく。今回についても、前野紀一氏が不用意な表現の発言をJCAST の記事「水よりお湯早く凍る論争沸騰 日本雪氷学会で本格議論へ」でしている。以下引用。

前野名誉教授は、家庭で手軽に実験できるのがいい点としながらも、ムペンバ効果そのものの解明はできないという。「コンピューターシミュレーションでも解明できないような難しい現象が、単純な形で現れているからです。物理の専門家はいかに難しい問題であるかをよく知っていて、プロジェクトを組まないと分からないものなのです」。



問題点は2つ。
 ・コンピューターシミュレーションを持ち出す必要がない
 ・専門家でなくとも、問題構造は理解できる

現象の解明に必要なのは、各種条件を制御した実験装置を用意するなど、具体的な実験デザインという方向のアプローチでいいのではないか。なぜ、ここでコンピューター・シミュレーションという言葉がでてくるのか理解できない。wikipedia だが、以下の記述は参考になると思う。

通常シミュレーションは現象の全てを試行要素とせず、対象要素を絞り込むことにより要素が現象に与える影響を検証する事が主な目的とされる。よって、結果が完全に不確定な事象を検証することは困難とされる。特にコンピュータを用いた積算によるシミュレーションは、基本的に線形近似による計算となるため、非線形要素を含む自然現象をシミュレートする場合は必ず誤差が生ずる。



また、未解明の問題構造自体は、専門家でなくともapj 氏のようなテキストを読めば理解できる。何か得体の知れない未知の現象という印象論的な文章よりも、ゴミや使用する水、冷蔵庫のサーモスタットなどなど、どのような撹乱因子が存在するのか、という具体的記述のほうが、コンピューター・シミュレーションを持ち出すより、遙かに有益だ。


今回の件が明らかにしたのは、「名選手、かならずしも名監督ならず」のような話なのだろう。ある分野で素晴らしい研究成果を挙げた前野紀一氏のような人であっても、「教育・啓蒙」というカテゴリにおいては、かならずしも良い教師ではない、という意味において。apj 氏のような人が雪の世界にもいてくれたらいいのに、と思う。

Red Bull のRisk

八方尾根スキー場にRed Bull がスポンサーとなってBMX のコースが造られるという。source は信濃毎日新聞

白馬八方尾根スキー場に自転車競技場が完成
愛好家らが同スキー場国際ゲレンデに造成した競技場は長さ約200メートル、幅約40メートル。ドイツとフランスのコースデザイナー2人が設計し、バンク(傾斜)やジャンプ台を十数カ所設けた。MTBとバイシクルモトクロス(BMX)の利用を想定している。

 健康飲料メーカー「レッドブル・ジャパン」(東京)が造成に必要な重機やコースデザイナーの協力を無償提供した。ドイツやオーストリアなどで行っている競技支援の一環で、今回の支援は日本初。北海道ニセコなど全国15カ所から希望があった。



BMX のコースを「自転車競技場」と表現する信濃毎日新聞に思わず微笑む方もいるだろうが、本日のテーマはそこにはない。飲料としてみたRed Bull のRisk について。Wikipediaでは概略が以下のように記載されている。

オーストリア産レッドブルは日本を含め世界145ヶ国で販売されている。主にカフェイン、ナイアシン、パントテン酸を含み法律などによって各国それぞれ分量の違いはあるが、日本で販売されている薬局で売るような栄養ドリンクとは異なるエナジードリンクとしてコンビニエンスストアなどで販売している。


同じくWikipedia には、Risk について、以下のような記述がある。

瓶に入ったタイ産のドリンク(写真参照)はオーストリア産のものとは品質が異なり、タイ国内で多量に服用した場合の危険性が指摘されている。

レッドブルはカフェインを含むため、またアルコールと混ぜた多量摂取による健康上の問題を重視したデンマーク、フランスなどでは、2004年まで同国内での販売を中止していた。レッドブルを含めた主な飲料のカフェイン含有量は以下の通り。



smart な人ならすぐに、このWikipedia の記述にはRed Bull Japan からの修正が入っている可能性が高いことを察知するだろう。「栄養ドリンクと異なるエナジードリンク」という記述は意味不明だ。また、オーストリア産のものとタイ産のものは異なり、片方にだけ問題があるような記述になっているが、最後のカフェイン問題はオーストリア産のことであり、それが記述されていない。


■指摘され続けているRisk
食品関係で信頼できるsource である「食品安全情報blog」を見ると、ヨーロッパでは以前から、そのRisk 表示の不足等について、指摘されてきていることがわかる。

たとえば5月1日にアップされているBfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)の報告を元にした「エネルギードリンク評価のための新しいヒトデータ」では、以下のような要約がある。

過去にアルコールと一緒に飲んだり激しい運動の際に飲んだりしてエネルギードリンクによると疑われる死亡が報告されている。因果関係は証明されていない。科学者はエネルギードリ ンクの成分がその毒性作用をお互いに増強して健康影響を引き起こす可能性があると考えている。



また、5月21日付けの「レッドブルと消費者」ではAFSSA(フランス食品衛生安全庁)の報告の要約が載っている。

2001年以降AFSSAはレッドブルについていくつかの意見を発表してきた。タウリンやD-グルクロノラクトンの含量などからAFSSAはこの飲料の安全性は保証できないと考えている。また栄養上のメリットも示されていない。



Wikipedia の記述だけを読んでいると、タイ産だけに問題があるように読めるが、実際は、オーストリア産についても、ずっと以前からRed Bull のRisk 問題は、食品の安全に係わる各国の政府機関によって懸念が表明されてきていることがわかる。


■イギリスでは
2008年6月18日、Dailymailに「Cynically marketed, toxic and disturbing: Why Red Bull is Britain's real drink problem」という記事が載った。簡単にいえば、Red Bull をカクテルに使って、泥酔する若者が多数出ていること、そして、それが原因と思われる死者もいることなどが書かれている。また、タイトルにも「Cynically marketed」とあるように、記事ではRed Bull のマーケティング戦略にも触れている。興味深い記述は以下になる。

・1987年にスタートして以来、取引高のほぼ30%をプロモーションに費やしている。(コカ・コーラはおよそ9%)
・ノルウェー、デンマーク、ウルグアイ、アイスランドで販売停止
・アイルランド、トルコ、スウェーデン、米国は懸念を表明。
・Facebookなどを使った、viral marketing(口コミ)を使う
・ノースカロライナ州 Wake Forest University School of Medicineのメアリー・クレア・オブライエン教授は、普通にアルコール摂取するよりRed Bull を使ったカクテル等は2倍、怪我や危害にあうリスクがあると報告
・カナダでは「子供や妊婦もしくは授乳中の女性、カフェインに過敏な人、またアルコール類と混ぜることなどは推奨されない」という警告文が印字されているが、イギリスでない、なぜだ?




AFSSA(フランス食品衛生安全庁)の最新報告
2008年7月15日、AFSSA の最新報告がsite の掲載された。重要な記述は以下になる。

・エナジードリンクは、マーケティング用語である。
・スポーツドリンクと混同してはならない。
・栄養的な意味は何もない。
・日常摂取量の5~500倍のタウリンやD-グルクロノラクトンの含量から、AFSSAはRed Bull の安全性を保証しない。
・高カフェインの告知が必要である。
・従って妊婦が飲むのは思慮のない行為である。
・アルコールとの摂取は、酔いの認知を鈍らせることが研究から分かっている。
・中枢神経系に影響を与えることも分かっている。
・BfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)も、最近、新しいレポートを出したが、AFSSA と同じ見解である。
・2001年から2006年の間にAFSSA が出した4つの見解に基づき、DGCCRF(経済・財政・産業省 競争・消費問題・詐欺防止総局)は、栄養的に無価値なRed Bull の販売許可を与えなかった。しかし、EU の自由貿易協定の基準に基づき、後に販売が認められた。


ポイントは、AFSSA という国の機関は、安全性を懸念しているが、EU 加盟国としての貿易流通上の問題から販売が許可されたに過ぎない、ということ。


■日本では
折角の機会なので、セブンイレブンで買って飲んでみる。陳列は普通の清涼飲料水と同じ棚。味は、少しまずくしたオロナミンCかリポビタンDといったところ。さて、注意書きをみようと裏を見ると、赤く目立つ文字で書いてあるのは、宣伝文句のほうで、以下の文章は、一番最後に小さく書かれていた。

ご注意●カフェインが含まれています。お子様や妊婦の方、カフェインに敏感な方等は飲用をお控えください。




ここまで読んで頂ければ、整理するまでもないかもしれない。栄養もなく、スポーツドリンクのような機能性もない、興奮作用を促すいくつかの原料を溶かした砂糖水、というのが、Red Bull ということだ。そして、各国の政府機関がこれまで懸念を表明しつづけているRisk もある。こんな飲み物に、275円も出して飲む人がいるのだろうか? まったくCool じゃないね。少なくとも、販売の陳列棚への何かしらの工夫は必要に思う。
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