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白馬大雪渓の事故・続報

7月19日に発生した白馬大雪渓での事故についての続報を少し。

最初に、以前のエントリ「白馬大雪渓の事故は土石流」について、ある方から非公開コメントを頂き、苅谷愛彦准教授(専修大学)の記事内の談話について、苅谷氏は「土石流である」とは発言してしていないこと、また、談話を寄せた際に事例として出したのは「2006年に、今回と同じ場所で発生した土石流」であることが判明した。中日新聞の記者が、記事をまとめる際に誤ったらしい。前エントリのタイトルと記事内から土石流を削除しました。


信濃毎日新聞に以下のような記事が載りました。

「土石流でなく地滑り」北沢・信大名誉教授が白馬の現場視察
8月23日(土)
信大の北沢秋司名誉教授(治山・砂防学)は22日、北アルプス白馬大雪渓の土砂崩落現場をヘリコプターから視察し、「土石流ではなく地滑り崩壊」と説明した。地滑りした土砂の規模は約1300立方メートルと推定。現場一帯には雨による地滑りが起きやすい地層があるといい、「大雨の時は絶対に歩くべきでない」と述べた。

   白馬崩落現場


 北沢名誉教授によると、崩落現場一帯は、水を通さない粘土質の地層の上に、砂岩や泥岩などの混在岩が堆積(たいせき)している。大雨が降ると、混在岩が多量の水を含み、すき間から水が一気に噴き出すという。崩落があった19日は、現場一帯で30ミリの時間雨量があったとみられ、地中から噴き出した水が堆積した土砂を崩したと考えられるという。

 また、北沢名誉教授は、今回の崩落現場と同じような地層が、一帯にどれくらいあるか調査する必要がある-と指摘。今回の崩落現場は「既に水が抜けており、土砂は固まっている」とも述べた。



どうもよくわかりません。
疑問1: 地すべりしても植生が残る?
写真の解像度が低いのではっきりしない面もありますが、崩落場所としてある赤い斜線の下には、まだ緑の植生が残っているようですし、その崩落場所直下にも植生が残っています。地すべりのような土砂が多量に動く形態において、このように植生が残るということがあるのでしょうか?

疑問2: 流下幅が上空からでわかるのか?
既に20日には天気は回復しており、ガレ等は乾いているでしょう。その状況で、上空から土砂崩落の流下幅等がわかるものなのでしょうか? 写真にある点線について、本当なんだろうか? という思いで見ております。

疑問3: 上空からで現場の土砂の安定性がわかるのか?
北澤秋司氏は「既に水が抜けており、土砂は固まっている」とコメントしていますが、ヘリコプターから目視しただけで土砂の安定性がわかるのでしょうか? 神の目を持っているとか。。。


とりあえず、地すべりとはどんなものなのか、少し調べてみました。国土交通省河川局砂防部に「日本の砂防」というページがあり、そこに地すべりと土石流について簡単にまとめたPDF があります。また、地すべりの写真は同じサイトに「日本の地すべり災害事例写真」があり、沢山の事例を見ることができます。

地すべりとは
斜面の土塊が地下水などの影響によって地すべり面に沿ってゆっくりと斜面下方に移動する現象のことをいいます。一般的に広範囲にわたり発生し移動土塊量が大きいため、甚大な被害を及ぼします。また、一旦動き出すとこれを完全に停止させることは非常に困難です。我が国では、地質的にぜい弱であることに加えて融雪や梅雨などの豪雨により、毎年各地で地すべりが発生しています。

   地滑り


土石流とは
山腹や渓床を構成する土砂石礫の一部が長雨や集中豪雨などによって水と一体となり、かゆ状となって一気に下流へと押し流されるものをいいます。その流れの速さは規模によって異なりますが、時速20~40kmという速度で一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまいます。

   土石流



樹林に覆われた山が地すべりを起こした場合、それは上空からでも明瞭にわかりますが、白馬のような場合はどうなのでしょう。また、地すべりの定義である「地すべり面に沿って斜面の土塊が動く」から考えると、崩落場所およびその直下に植生が残っているというのは、どうにもよくわかりません。ある小規模な範囲の土砂が多量の降雨等の理由により流動し、周囲のガレ等を巻き込みながら流下した・・・というのが実態に近いようにも感じます。あくまで想像ですが。


地すべりの型の分類や記述をみていて、なんとなくしっくりこない面があり、なぜだろうと感じていたのですが、それをすっきりさせてくれる記述が、田近淳氏(北海道立地質研究所)の「堆積岩山地の崩壊現象」という記事にありました。

日本での「地すべりの型分類」は対策工種が強く結びついている。 このため、斜面変動に関する分類や用語は、 目的とする分野によって異なる定義や意味で使われていることがある。 それを前提とした議論が必要である。



定義については、これ以上立ち入らないことにしようと思います。自然現象が先にあり、定義は後から人間が作ったものですから、どちらにもうまく収まらないような現象はありますので。よって、広義の意味を持つ土砂崩落と以後はしたいと思います。

ルートの再開問題についても報道がでているようです。それは別エントリにしようと思います。


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tag : 白馬大雪渓

白馬大雪渓の事故

土砂崩落について調査がされたようです。中日新聞社会面によると。

北アルプス白馬岳の地形の変化を1997年から研究している専修大の苅谷愛彦(よしひこ)准教授(42)=地形学=が20日、大雪渓の土砂崩落現場を調査し、土石流が発生した過程について、「豪雨で大量の沢の水が流れ込み、堆積(たいせき)していた礫(れき)や砂が“かゆ”状になって崩れ落ちた」との見方を示した。

 苅谷准教授によると、大雪渓周辺はU字形の地形で、硬い岩盤の上に礫などが積もっており、現場を含む斜面は落石も起きやすいところという。現場周辺には沢が流れ込んでおり、豪雨の際には土石流の発生する危険性が高く、昨年7月にも大規模な土石流が発生している。

 苅谷准教授は、昨年7月のケースは、上流で土石流が発生し、周囲の土砂を巻き込んで広範囲にわたったのに対し、今回は土石流の長さが100メートルと短く、斜面の比較的低い位置から局所的にそげ落ちた形と分析。斜面の一部が崩れ落ちずに残っているとみられることから「再び天候が悪化すれば、2次災害の起きる危険性がある」と指摘している。(強調は引用者による)



どうやら2005年8月の杓子岳側からの大規模崩落とはメカニズムが異なるようですね。豪雨とそれに伴う、土石流土砂崩落ですから。もちろん、地質として硬い岩盤の上に礫などが積もっている地域特性はあるにせよです。


同じ中日新聞の記事には、ガイドの判断について疑問を呈す声がいくつか載っています。記事タイトルも「『引き返すべきだった』 白馬岳崩落 地元の関係者、沈痛」というものです。

山岳ガイドの野間洋志さん(35)ら2人が犠牲になった白馬岳大雪渓で起きた土砂崩落事故。地元の山岳関係者からは、悪天候は十分予想できたとし、「引き返すべきだった」との声が上がった。

「日本海から寒冷前線が下りてきて、局地的な豪雨や雷は予測できた」。白馬岳に詳しい山岳ガイド歴25年の倉科(くらしな)光男さん(58)は指摘する。

 倉科さんは、崩落が起きた19日、数時間後には荒天になると予測し、午前7時半に自らガイドを務めるトレッキングツアーを中止。猿倉で登山客らに引き返すよう助言し、予定を変更したグループもあったという。「気象情報をしっかりつかんでいれば、防げた事故ではなかったか」。倉科さんは沈痛な表情を浮かべた。

 野間さんら2人が宿泊先の白馬尻小屋をいつ、どういう判断で出発したかは分からないが、19日午前10時半ごろ、崩落現場の下方で登山中の姿が目撃されていた。白馬岳は早朝から雨が降りだし、国土交通省の雨量計によると、午前9時から10時までの1時間に24ミリの強い雨が降った。

 北アルプス北部地区山岳遭難防止対策協会(遭対協)の石田弘行さん(62)も「朝から雨で天候が荒れることは予測できた。常識的にみて引き返すべきだった」。

 捜索活動を指揮した同遭対協の降籏(ふるはた)義道さん(60)は「雨が降っていれば視界も悪い。土砂崩落は予期しなかったと思うが、無理しないでほしかった」と惜しんだ。



メディアは「地元に詳しい・・・」という枕詞が好きですが、寒冷前線が南下しつつあり、それに伴って局所的な豪雨があるのは、天気に興味ある山が好きな人であればわかっている話かと思います。

記事では「引き返すべきだった」というコメントが多いのですが、後出しジャンケンに感じます。降雨と土石流土砂崩落発生の関連は、とても大雑把な傾向の言及はできても、より具体的な関係については言えないのですから、「気象情報をしっかりつかんでいれば、防げた事故ではなかったか」というコメントはズレているように思います。

むしろ、今回の事故原因である土石流土砂崩落被災から離れ、「どのような判断で出発の決断をしたのだろうか?」という問いのほうが重要であるように思われます。日本山岳ガイド協会の公認ガイドが、どのような情報を元に、どのような判断を下し、出発したのか、ということです。あのような寒冷前線が南下している時は、別要因による気象遭難があっても不思議ではないからです。

当事者がお亡くなりになっている状況では、この問いは不明のまま残ることになるかと思いますが、おそらく、そこが事故を自分のものとして理解するには一番大切であろうと思います。

今年は、雷なども多く、事故も発生しておりますし、気象現象が強くでる傾向にあります。参考に「チーム森田の“天気で斬る!”」の8月19日の頁をリンクしておきます。寒冷前線の南下に伴う注意喚起が記載されていますし、朝8時の時点での落雷記録があります。

 
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天候状況を記述している報道があったので追記メモしておく。毎日新聞からの抜粋。

白馬岳崩落:2遺体発見 「無事で」…祈り届かず /長野
8月21日13時1分配信 毎日新聞

19日午前5時半に3人パーティーで入山した東京都北区の私立学校教員、樋口雅夫さん(44)は「雨のひどさなどから、下山を決めた。登山道は川のような状態で10メートル先で小規模な土石流や落石も目撃した。地盤はかなり水を含み、危険だと感じた」と話す。20日午前、猿倉登山口から下山した大阪府高槻市、公務員の石田善紀さん(58)は「大雪渓を通り、栂池に向かおうと思っていたが、雨がひどく引き返した。19日の午前10時半ごろはどしゃ降り状態だった。視界も悪く、10メートル先がやっと見えるほどだった」と説明した。


 
 
ステレオタイプなコメントもあっったので、それもメモしておく。

崩落事故を受け、白馬村は大雪渓ルートの現場付近の登山禁止を知らせる立て看板を設置。バスやタクシー会社には、登山客に現状を説明するよう求めたほか、現場付近の山小屋には職員を派遣、注意喚起を図った。崩落事故について20日会見した白馬村の太田紘煕村長は「(亡くなった方は)お気の毒で、あってはならないこと。登山に危険はついて回るが、十分注意して登ってほしい」と厳しい表情を浮かべた。



事故があってはならないのであれば、山を閉ざしたほうがいいし、山で観光立村など考えないことだ。「あってはならない」という言い方はいい加減やめたほうがいいと思う。
 
 
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さらに追記、苅谷愛彦氏は「土石流である」と発言していない事実が判明したので、記事内の用語を「土砂崩落」に書き換えた。また、タイトルから「土石流」を削除した。(8/25)

tag : 白馬大雪渓山岳ガイド

白馬大雪渓でガイドツアーの事故

概略がわかってきたので、メモとしてアップ。まず信濃毎日新聞の報道。

白馬大雪渓で土砂崩落、登山者2人と連絡取れず
8月20日(水)

 19日午後4時10分ごろ、北安曇郡白馬村の北アルプス白馬大雪渓上部で土砂崩落があったと、県山岳遭難防止対策協会の常駐隊から大町署に通報があった。村や同署によると、崩落は標高2300メートル付近の葱平(ねぶかっぴら)下部で発生。幅約30メートル、長さ約70メートルの規模で、現場付近に登山用ザックが落ちており、登山者が巻き込まれた可能性がある。

 同署などによると、白馬岳(標高2、932メートル)頂上近くの白馬山荘にこの日宿泊予定だった女性と、同行していた「登(と)攀(はん)クラブ安曇野」(安曇野市)所属の野間洋志さんの計2人と連絡が取れていない。現場で見つかったザックは野間さんの所有とみられる。

 当初、頂上付近の山小屋に宿泊予定の3グループ8人と連絡が取れていない-との情報もあったが、2グループ6人は入山していなかったことが確認できたという。

 現場は残雪がある登山ルート上。付近を通った登山者の目撃情報から、土砂崩落は同日午前11時ごろとみられる。この情報を受けた県遭対協常駐隊員が白馬山荘から現場へ向かい、崩落を確認した。

 県警は同日午後5時半ごろに県警ヘリ「しんしゅう」を出動させたが、天候が悪く現場を確認できなかった。20日早朝からあらためて捜索する。「しんしゅう」が現場へ向かうほか、山岳遭難救助隊員や県遭対協の救助隊員、民間のレスキュー犬も投入する方針。新潟県警にもヘリの応援を要請している。

 葱平付近では、2005年8月にも土砂崩落が起き、2人が死傷している。

 長野地方気象台によると、19日は日本海の低気圧から延びた前線が本州を東へ進み、県内では北ア周辺など北部を中心に激しい雨になった。白馬村役場総務課によると、登山口の猿倉では午前7時ごろから雨が降り始め、午前10時から午後2時にかけては1時間に最大22ミリの強い雨。午後3時までに計111ミリを観測した。




報道から分かるのは・・・
・ガイドツアー
・白馬山荘を目指して登っていた可能性
・かなり雨が降った模様


ガイドについては、安曇野山岳ガイドクラブに所属されている方らしい。
案内には以下のような文章がある。

安曇野山岳ガイドクラブは社団法人日本山岳ガイド協会の正規加盟団体です。
燕山荘グループの現役スタッフ、OBが母体となって構成されたガイド組織です。




また降雨については、同じ頃、大雪渓を下山してきたグループのコメントが
読売新聞に掲載されていた。

白馬岳崩落「自分たちも間一髪」 登山者ら、安否気遣う
高山植物と万年雪が美しい登山コースを土砂が襲った。白馬村の白馬(しろうま)岳の大雪渓で19日起きた土砂崩落。登山を予定していた2人と連絡がとれなくなっており、関係者の間から安否を心配する声が上がった。

(中略)

高山植物の保護のため、白馬岳の頂上に約1か月滞在していた宇都宮大4年の川上浩一さん(21)のグループは同日午前8時過ぎに頂上宿舎を出発。同10時ごろに大雪渓を通った。

 「その時は土砂降りで、いつもに比べ人がいなかった」。午後1時ごろ、登山口の近くにある猿倉荘に到着したが、土砂崩落にはまったく気付かなかったという。猿倉荘で見たニュースで、崩落を知った。「びっくりした。自分たちが通ってきた道なので、間一髪だった。あの雨の中で土砂に巻きこまれたらどうなっているかわからない。心配だ」と、連絡のつかなくなった2人を気遣った。

 千葉県の中高一貫校「市川学園」のワンダーフォーゲル部の部員10人を引率して、猿倉荘に来ていた顧問の中川一成さん(55)は「大雪渓を通って白馬岳の山頂に行く予定だったが、違うルートを行くか、登山をあきらめるか考える。大雪渓を楽しみにしていた生徒もいるが、仕方がない」と話していた。(2008年8月20日 読売新聞)




現場では、かなりの土砂降りであったようです。
最後に、NHK ニュースでの専門家のコメントをメモしておきます。

今回起きた土砂崩落について、土砂災害の発生のメカニズムに詳しい信州大学の北澤秋司名誉教授は「土砂の崩落が起きた付近は傾斜が急なうえ、岩が風化してボロボロになっているため、いつ崩落が起きてもおかしくない場所といえる。現場付近では、崩落が起きる前に1時間に20mmほどの雨が降っており、この雨がきっかけとなって風化した岩が崩れ、崩落につながったと考えられる」と指摘しました。

そのうえで北澤名誉教授は「白馬岳では3年前にも大規模な崩落が発生するなど、 崩落の危険性が高い山で、登山者は天候などに十分注意し、少しでも危険を感じた場合には引き返す勇気を持ってもらいたい」と話しています。



メディアはこうして大学の教授等にコメントをもらうことで、仕事したつもりになっていますが、この程度のことは、山が好きな方なら理解しているでしょうし、「少しでも危険を感じたら…」といった抽象論ではリスク管理はできませんしね。現場も見ていないのに、崩落原因を語るのはいかがなものなのでしょう。学究者らしからぬ軽率な言動に思えます。


報道からではわからない点で知りたく思うのは、視界がどの程度あったのだろう、ということです。

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tag : 白馬大雪渓

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