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落石事故訴訟と頭部強打時の対処

SBC に2005年10月6日にあった乗鞍岳での落石事故が訴訟になったニュースが流れました。

中学集団登山落石で負傷で提訴市は争う姿勢
(04日18時52分)
集団登山で頭に落石を受けたのに歩いて下山したのは学校の判断ミスだったなどとして元中学生の少年と両親が松本市に損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が開かれ市は全面的に争う姿勢を示しました。

   norikura.gif

この事故は2005年10月北アルプスの乗鞍岳に集団登山していた松本市立清水中学校の生徒の列に直径およそ1・5メートルの石が落ち4人がけがをしたものです。

脚の骨を折るなどした3人はヘリコプターで運ばれましたが男子生徒は自力で下山しその後頭の中に出血があったとして9日間入院しました。

元中学生の少年と両親は「急な坂道を歩かせたことは死にもつながりかねない判断ミスだった」などとして市に220万円の損害賠償を求めています。

きょう開かれた第1回口頭弁論で市側は事故当時頭の出血を判断することは難しく男子生徒も自主的に下山を始めたなどととして全面的に争う姿勢を示しました。



引っかかったのは、事故時、頭部を強打している生徒を歩いて下山させていること
詳細がわからないので少し調べてみました。

以下は、信濃毎日新聞をクリッピングしたサイトからの転載。


六日午後零時半ごろ、長野と岐阜県境の北アルプス乗鞍岳・剣ケ峰(標高三、〇二六㍍)頂上付近で、登山道を擦れ違うように上り下りしていた松本市清水中学校二年生の集団に、直径一・五㍍ほどの岩が落ちてきた。

   norikura2


落石を受けた同市県、下平友理さん(13)が右足太ももの骨を折り、同市蟻ケ崎、小岩井悠太君(14)が頭を強く打ってともに重傷。ほかに男女各一人の生徒が足を擦るなどの軽いけがをした。

引率教員が現場から携帯電話で松本広域消防局に通報。下平さんと軽傷の二人は県警と県のヘリコブターで松本市内の病院に運ばれた。小岩井君はほかの生徒たちと自力で下山後、不調を訴えて東筑摩郡波田町内の病院に運ばれた。     平成17年10月7日(金) 信濃毎日新聞 掲載




訴状を見ていませんので、わからない点は多々あるのですが、報道から感じる松本市の反論「事故当時頭の出血を判断することは難しく男子生徒も自主的に下山を始めた」はかなり引っかかります。要点は以下の2つです。
 1)中学の学校登山で自主的な下山などあるのか?
 2)頭部強打時のイロハを知らない?


常識的に考えて、中学生のような未成年それも学校行事で自主的な行動はありえないでしょう。想像しますに、本人がその時は「大丈夫だと思います」と言ったのかも知れません。ですから、2の頭部強打時のイロハを知らない先生であれば、「当人が大丈夫だといって、歩いたじゃないか」という感想を持つものです。

しかしながら、頭部強打時の対処を知っている人であれば、「本人が大丈夫といっても、それを真に受けない」という対応を取ります。これが基本です。最低でも数時間は安静にして、動静を見守ることが必要ですし、できるなら、すぐに脳神経外科でCT を取るべきです。たいした金額はかかりません。

松本市は「事故当時頭の出血を判断することは難しく」ということが反論になると思っているようですが、むしろ逆で「脳内の出血は外からではわからないからこそ、安全のマージンを取った事後対処が重要」という理由にしかなりません。


今回のケースで疑問なのは、ヘリコプターが来ており、他の怪我の生徒を搬送しているのに、頭部強打した生徒を、なぜ乗せなかったのだろう? ということです。頭部強打時のリスクの大きさを理解していれば、搬送させるはずですので。もしヘリコプターの定員の関係で、優先順位を付ける必要があるなら、大腿骨骨折の女子生徒と、頭部強打の生徒でしょう。他の軽傷者は、すぐに死ぬようなことないのですから。


さらに、疑問なのは、その場にいた先生が頭部強打後の対処を知らなかったとしても、学校登山であれば、保健の先生なども一緒にいるはずです。無線で一報を入れて、指示を仰げば、「念のため搬送させなさい」とするはずです。なぜなら、頭部強打によって起こる急性硬膜下血腫のような症例は、受け身がうまく取れなかった場合など、柔道でも発生しており、それはよく知られた事実だからです。

中学校では柔道の授業がありますし、当然、その際のリスクも保健の先生や体育の先生であれば、よく理解しているはずです。よって、頭部強打時の安全のマージンを取った対処も知っていてしかるべきですから、そうした先生に指示を仰げば、自力下山させることはなかったのではないでしょうか。


■snowboard と頭部強打■
snowboard をする人にとって、頭部強打といえば、逆エッジでの後頭部強打です。snowboard が急速に広まった90年代半ばには、初心者が転倒、頭部強打、そして急性硬膜下血腫で何人も亡くなり、社会問題化しました。このリスクは今もあります。リスク軽減の一つは、ヘルメットを被ることです。こうした事故を、間近で見てきましたので、キッズにsnowbooard を薦める気にはなりません。まずはski を行い、身体がしっかりしてからで十分です。

この頃の悲惨が状況については、岐阜県白鳥町にある鷲見病院の先生が、本人もsnowboard をされることもあり、また白鳥町周辺にあるスキー場の怪我人が、ここの病院に搬送されることもあり、以前より精力的な啓発活動をされていました。ある女性が亡くなった記録がサイト「微笑みの中で」にありますので、snowboard の逆エッジおよび急性硬膜下血腫のリスクをご存じない方は、ぜひお読み頂ければと思います。


頭部強打時の留意点を書いておきます。

一時的な健忘症はよく出る症状ですから、周囲の人が注意深く観察し続けることが大事です。数時間してから、急激に容体が悪化することは普通にあります。以下の症状は、注意すべき兆候です。
 ・頭痛がひどくなっていく
 ・食べていないのに吐き気や嘔吐感が何回もある
 ・話しかけないと寝てしまうし、なかなか目が覚めない
 ・モノが二重に見えたり、よく見えなくなったりもする
 ・痙攣が起こる
 ・熱が高くなっていく
 ・手足がしびれたり、動かしにくい


硬膜下血腫も、急性のものと慢性のものがあります。事故後、数時間で死亡するのは急性のほうです。慢性のほうの事例をいえば、たとえばお婆ちゃんが、家の中でつまずいて転び、頭部を畳で強打。大丈夫で良かった・・・・・・と言っていて、数日経ってから、何か変、という症状がでたりすることがあります。

これは、出血が非常に少しずつであったため、血による脳の圧迫がゆっくりなされ、結果、症状が時間をおいてから出た、ということです。脳味噌は豆腐のように柔らかいので、非常にゆっくりした変化には対応するのです。手術は頭蓋骨をドリルで穴を開け、溜まった血を出すというものになります。

今回の中学生は非常にラッキーだったと思います。脳内での出血量が非常に少しずつであったので、数日してから症状がでたのですから。最悪の場合、下山している途中で症状がでて、亡くなっていても不思議でありませんでした。

 
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tag : 落石硬膜下血腫

メットスキーってなに?

まずはSAJ のサイトに掲示された以下の記事を。

今年の冬は「メットスキー 好き!

  metskisuki2.gif

このポスターのコピー、なんだかわかりますか? 
「メット」とはヘルメットのことで、スキーやスノーボードを安全に楽しむために、また、新しい雪上スポーツのファッションとして定着させようと日本スキー産業振興会(小賀坂道邦会長)が提唱、これにSAJをはじめ(社)日本職業スキー教師協会、(財)日本鋼索交通協会、全国スキー安全対策協議会が賛同してご覧のポスターの誕生となった。

モデルはスキーヤーとして、またモデルとして活躍中の松本悠佳(ゆか)さん。このポスターが、今年の冬は各地のスキー場やスキー学校で見かけることになるかと思うが、彼女も「これからはメットで安全にカッコよくスキーを楽しみましょう」と訴えているように、今年の冬は「We Love Met Ski」を合い言葉に、メットを着用してゲレンデに出よう。



しかし、なんというキャッチコピー。
しかし、なんというベタなプロモ。
SAJ らしい、日本らしいといえばそれまでですが。

モデルの松本悠佳さんはブログがあるようです。こちら
ご本人は、まだヘルメットを普段、使用されていないようですね。
今シーズンは、当然、率先してヘルメットを着用されるのですよね、きっと。

米国ならもっとトップアスリートを使うでしょうね。
たとえば、Shaun Wihte とか。
効果違いますから。
当人は、ヘルメットをオークションして、
収益金をドネーしたこともあったようです。
これも米国的ではありますが。こちら


日本でしたら、上村愛子さんが適任だと思うのですけどね。
普段からヘルメットを着用している。
そして、優れたアスリートでありますし。


■データはいずこ?■
さて、日本的なるものの、もう一つの特徴が、啓発事項であるにもかかわらず、ヘルメット着用がいかに大事であるのか、データが示されていないこと。ヘルメットをかぶると「ファッションとしてかっこいい」の以前に、「なぜ、それが推奨されるのか?」という一番大事な点がまったく書かれていないし、SAJ のサイトにもそれが載っていません。

というわけで、少し情報を。ググればすぐでてくる程度の話ですが。。。

Snow Boarding Head Injuries Increase; AANS: Wear a Helmet」に、2006年からの消費者製品安全委員会(CPSC: Consumer Product Safety Commission)の統計概算値がでています。わかりやすいようにグラフにしました。

helmetdata.gif


また、米国整形外科学会(AAOS: The American Academy of Orthopaedic Surgeons)では、ヘルメットの使用を推奨しており、Position Statementを発表しています。Position Statementとは著者の意見に基づく教育的な声明です。いわゆる査読された論文のようなものではありませんが、読者は、その内容を考慮して、自身の行動判断に役立ててほしい、というタイプの声明です。以下、ざくっと抜粋。ソースはこちら


・スキーの怪我発生率は、近年、減少している。
・一方、重傷の相対的な割合は増加している。
・米国では、毎年20~30人がスキーで死亡している。

・下肢の怪我は、しばしば用具が関係している。
・このような怪我の頻度は、研究と用具の改良で減少している。
・上体および頭部の怪我、そして死亡が比較的減少していない。

・消費者製品安全委員会(CPSC)によれば、
 男性スキーヤーは女性スキーヤーより、頭部外傷の発生が50% 高い。
・スノーボーダーは年配のスキーヤーより3倍、頭部損傷の発生率がある。

・スキーヤーの最も一般的な原因は、固定物(たとえば木)との衝突である。
・スキーの怪我は一日の終わりに発生する傾向があり、頭部損傷も同様。
 
・頭部外傷は、午後、より頻繁に起こる。
・怪我の頻度と時刻は、疲労が重要な要素であることを示唆する。


・死亡は経験豊かなスキーヤーにより起こる傾向がある。
・これはスピードが重要な要素であることを示している。

・頭部外傷の発生率は増加している。
・最も考えられることは、斜面整備の改善が滑走速度を上げていることである。


・ヘルメットの目的は、衝撃を吸収し、そのエネルギーを吸収することである。
・ヘルメットは怪我のリスクを減少させないが、程度を減少させることはできる。

・調査により、27件の死に至った頭部外傷において15件の頭蓋骨骨折が判明。
・この内、6件では骨折の程度が弱まっていた。ヘルメットの効果が示唆される。

・スウェーデンでの最近のいくつかの研究によれば
 ヘルメットの使用が、頭部外傷をおよそ50% 減らしている。

・サイクリストのヘルメット使用により、ひどい頭部損傷は70% 減っている。




消費者製品安全委員会(CPSC)は以前より、ヘルメットの使用について調査を行っており、1999年1月には、「Skiing Helmets An Evaluation of the Potential to Reduce Head Injury」というレポートもでています。興味ある方はどうぞ。また、SAM(Ski Area Management)というスキー場業界向けの雑誌では、ヘルメットに関しては度々書かれており、サイトで過去記事を読むこともできます。こちら

日本では、全国スキー安全対策協議会というスキー場の業界団体があり、基礎調査はしていますが、上記のような詳細なデータは掲示されていません。調査内容はこちら


■最後に一考■
ヘルメットは頭部損傷を軽減することができますし、最近のものは軽量化がされていますので、かぶっていてもあまり違和感がありません。馴れてしまえば気になりませんし、暖かいというメリットもあります。

大事な点は、ヘルメットは頭部損傷リスクを軽減しますが、頸椎は保護してくれない、ということです。頸椎を痛めれば、最悪死亡、助かっても一生寝たきりも、ごく普通にあり得ます。キッカーで背中落ちし、腰椎を痛め、下半身不随という事例も日本でもあります。

さらに、日本のスキーパトロールの教育システムやプログラムが未成熟であるため、バックボードやCカラーさえないようなスキー場があります。つまり、頸椎損傷が疑われるケースでも、適切な搬送が期待できない、ということです。これはいずれ書こうと思います。


米国整形外科学会のPosition Statement の最後には、ヘルメット着用の法的な義務化についても触れられていますが、これはアメリカ的だなと感じます。Backcountry Riding のような世界からみますと、そこまで個人の選択肢を社会が決定し、狭めていくようなトレンドについては、正直、勘弁してほしいなと。

Risk をなるべく客観的に提示する、それをどの程度受けいれるのか、それについては、個人の選択を尊重する・・・・そのようなプロセスを許容できない社会には、Backcountry Riding のような世界は成立しないですからね。

 

tag : ヘルメット頭部損傷SAJ

ケニアでヒョウが降る

yahoo にロイター配信のニュースが・・・。

ケニア中部でひょう、白く覆われた地面に住民は驚き
   kenia.jpg

9月3日、ケニア中部でひょうが降り、白く覆われた地面に住民が驚いた。
(2008年 ロイター/Antony Njuguna) (ロイター)4日16時45分更新



本家のREUTERSにいくと以下のような楽しい写真とコメントが・・・。

"In fact this thing is very sweet, we have never seen anything like this. We like the ice so much because with the sun being hot, you take it and you feel satisfied," resident Simon Kimani said.

   hails.gif




ついでにYouTube には、こんな豪快なヒョウの動画がありました。痛いじゃすみませんね。



 

白馬大雪渓登山ルート再開にあたって

毎日新聞に白馬大雪渓登山ルート再開のニュースが流れていました。

登山道きょう再開 北沢・信州大名誉教授「再発の可能性低い」
9月3日15時1分配信 毎日新聞
 2人が死亡した白馬村の北アルプス・白馬(しろうま)岳(2932メートル)の大雪渓土砂崩落事故で、同村は2日、登山道の通行禁止を3日から解除することを決めた。北沢秋司・信州大名誉教授(治山・砂防)らが2日に現地調査し「現場は落ち着いた状態。大規模な崩落が再び起きる可能性は低い」と判断したため。一方、「雨量による一律の入・下山禁止は困難」として勧告措置の導入は見送った。
 名誉教授によると、今回の崩落は当初「崩壊型地滑り」とみられていたが、調査の結果、大小の岩が大量に崩れ落ちる「岩屑(がんせつ)崩れ」だった可能性が強まった。豪雨により地下水が斜面から噴き出したことが引き金になったという。当面は監視員として登山ガイドらが現場付近の登山道で落石への注意を呼びかける。【光田宗義】 9月3日朝刊



現地調査が行われたようで何よりです。過去の流れからみれば、この北澤秋司氏はもうひとつ信を置けない(簡単にいえば御用学者っぽい)わけですが、発表の通り「岩屑崩れ」の可能性が高いという言葉を信じてみましょう。

そうしますと、今回の崩落は「豪雨を原因とする、ある特別な状況に現場が曝されたがゆえに発生した」と考えるのが自然でしょう。であるとするならば、監視員を今回の現場に配置することが、妥当な対応策と言えるのでしょうか?

「大雪渓ルートの再開を急いでいるのは、商売優先だ」という声があります。もし、同じ場所で、ごく普通にあるタイプの落石での事故があれば、メディアや一部の人は「村は何か対策をしていたのか?」と声高に叫ぶ可能性もあります。それを恐れているのでしょうか。


監視員を、今回の現場に配置する措置は妥当なのでしょうか? この処置を「追求を恐れて」とみることも可能ですし、「優しさ」と考えることもできます。面倒をみてあげたほうがいい、ということなのですから。しかし、これは登山者を大人扱いしない、という話になります。

山岳にはリスクがあり、どの程度のリスクを受容するかは本人が判断する・・・・・これこそが登山という行為の本質です。それゆえ、登山者を大人扱いしない方策は、その優しさとは裏腹に、登山者が育つことを阻害します。

日本ではこうしたお節介型の方策が多いように感じます。Backcountry Riding の世界でいえばニセコなどがその典型になるでしょう。これはいずれ書きたいと考えています。


信濃毎日新聞には以下のような記事がありました。抜粋です。

白馬大雪渓の入山禁止解除 迂回路通り山頂へ
9月3日(水)
 この日の崩落現場はガスに覆われ、視界が十数メートルの時もあった。時折、わずかな時間晴れ上がり、稜(りょう)線(せん)や雪渓が美しい姿を見せた。崩落で埋まった登山道から約50メートル下の迂回路には緑のロープが張られ、「すみやかに通過してください」の看板が立つ。

   監視

 入山禁止解除に伴い配置された監視役の登山ガイド2人は午前7時前に現場に到着。迂回路の入り口と、途中の大きな岩の上に待機して、周囲を見渡した。登山者が来ると「立ち止まらないで通過してください」と声を掛けていた。落石を察知した場合は笛や声で周囲に知らせるという。



このようなことを始めると、落石事故があった場所、すべてで同じように監視員を配置しなければならない・・・という流れに乗ってしまうことに気づかないのでしょうか? 山岳には落石という潜在的なリスクがあり、登山者はそれを前提として、そのリスクを受け入れる必要があるという理解が広まることを、この監視員設置が妨害しています。


もとより、大雪渓エリアは山岳であるということは、村が作成しているデジタルパンフレット『北アルプスアルペンガイド』にも大きく掲載されています。

白馬エリアは、トレッキングと登山が楽しめる山岳エリアです。トレッキングエリアとしては、五竜とおみエリア『小遠見山』まで、八方尾根エリア『八方池』まで、白馬大雪渓エリア『白馬尻(大雪渓ケルン)』までとされ、トレッキングエリアより上部へ立ち入る場合は登山となりますので、十分な装備と知識が要求され危険度も増加します。
 近年、白馬大雪渓では自然崩落による落石事故が発生しております。雪渓上では濃霧時の視界不良による道迷いや、滑落・落石も予想されますので特にご注意ください。雪渓上の落石は、速度が速く音がしないので注意が必要です。



これで十分だと思います。大事な点は、落石の可能性がある場所で、どのような行動がリスクを軽減できるのか、どのような行為がリスクを増大させるのか、具体的なものを啓発することでしょう。

また、ごく素朴な感想としては、監視員に登山ガイドを利用するなんて、なんという人的リソースの無駄遣いをしているのだろうと思います。それなら、大集団のガイドツアーレシオを適正なものにすべく、そちらに振り向けたほうがポジティブでしょう。レシオが適正になれば、その中でクライアントはガイドから山岳のリスクへの対処を学ぶこともできるようになるのですから。


さて、話は最初に戻り、北澤秋司氏の「現場は落ち着いた状態。大規模な崩落が再び起きる可能性は低い」というコメントについて。土砂崩落については語れるほどの知識もありませんので、わからないのですが、事故から二週間も経った後に現場調査をして、その原因等がどの程度把握できるものなのでしょうか?

以前のエントリにあるように、事故直後に現場に入った専修大学の苅谷愛彦氏に調査によれば、落ち残りが指摘されていますし、2006年には同じ場所で土石流が発生している、という事実があります。再び、大量の雨があれば、同じ程度の土砂崩落があってもなんら不思議ではないでしょうね、きっと。

 

tag : 白馬大雪渓

混沌にあるガイド資格

山岳ガイドの江本悠滋氏が、白馬大雪渓での事故に関係して「ガイド業って・・・」というエントリを書かれています。内容はごく真っ当な正論。江本悠滋氏が自分の見解をきちんと表明できるのは、彼はフランスの国家資格を持っているということが大きいでしょうね。

【不透明なガイド資格】
日本でのガイド資格システムは非常に不明確です。有資格者と呼ばれる人の多くは技術試験などもほぼ無い様な形で資格と言う名の付く物を得ています。これと同じ資格を取得した人の中には筆記試験や実技試験を受けて取得した最近のシステム合格者のガイドも存在しています。

どこで見分けるの?・・・・・・・・・僕にも解りません。

もちろんフランスを始めガイド登山の先進国では今ガイドとして生活すている略全ての人が定めらえら内容や研修、試験を得て資格を取得しています。



不透明な資格になっている理由は、既得権を守ろうとしている人がいるからでしょう。

日本山岳ガイド協会が設立される以前、日本山岳ガイド連盟という組織がありました。連盟として資格発給をしていましたが、その内実は、連盟に所属する各団体がそれぞれガイドとして認めた人を、そのまま追認するような形態でしたからね。ですから、日本山岳ガイド協会に衣替えをした今頃になって、資格試験内容や研修内容を作っているのです。

江本悠滋氏が指摘しているように、この数年内で日本山岳ガイド協会の資格取得した人と、10年前に資格取得した人では大きな違いがあります。さらに、この数年内に資格取得した人であっても、日本山岳ガイド協会のプログラム自体がまだ未成熟ですから、一考を要します。

ある意味、若いガイドの方はかわいそうだと思います。山岳ガイドというのは素晴らしい職種ですが、それに見合った教育システムも内容も整っていないのですから。



【自由競争過ぎるガイド産業】
日本でガイドとして人を山へ連れて行き金銭を受け取る行為(事業)は特別資格を必要とはされていません。と言う事は日本山岳ガイド協会に所属しなければいけない理由も無いのが事実です。

(中略)

日本でも今ガイドレシオと呼ばれる”ガイドに対する顧客の数”が出ていますがそれを守らなければならない理由も無く、それを無視したからと言って罰せられる事も無いようです。(フランスでは国家資格ですのでガイドレシオを守らない場合は法的に罰せられる事も有りえます。)



日本でガイドレシオのことを語ると、夏山であれば、学校登山についてどのように考えるのか? という問題に行き当たりますね。大集団で夏山の稜線歩きをする。そこにはレシオという概念はありませんので。

百名山ツアーで事故があり、旅行会社が主催する登山ツアーについてはややブレーキが掛かりましたが、トレッキングという概念でみても、大集団過ぎるツアーが横行しています。そして、それを主催しているのが新聞社であったりしますから、問題点が報道されることもほとんどありません。

また冬であれば、観光協会が主催して50人という大集団のバックカントリーツアーを実施、地元のガイドがそれ案内をしています。一昨年、大きな事故があった八甲田でも、相変わらず、同種の大集団のツアーが実施されれています。

専門誌は、これらを「地元の優秀なガイドが案内している安全なツアー」として紹介します。ですから、いつまで経っても、山岳リスクへの適切な理解が進まないのです。これは山岳ガイドにとって重要な「安全のマージン」に関連します。そして、そこへの理解がない限り、下記に書かれている「登らせないのもガイド」ということも、理解されることはないだろうと思います。



【一般登山とガイド登山の違い】
凄く大きな題材です。

(中略)

事実、山岳ガイドとして今活躍するガイドの中でも『あのコンディションで登らせた!』と自慢顔で話すガイドも居ます。これガイドの自己満足です。でもその自己満足を参加者に強制的に参加させる必要は無いと思う。

『登らせるも、登らせないもガイドの仕事』
       ↑これある人に言われ、その後大切にしてる言葉です。

(中略)

友達となら行くコンディションはガイド登山でも行くコンディションなのかと言う事です。ここの判断が一般登山とガイド登山の明確な判断基準のさかえ目だと思います。



最後の一文がすべてでしょうね。ガイドにとって一番大事なのは、言うまでもなく、事故を起こさないこと。事前と事後に分ければ、事前に関連する事項に対して、具体的なスキルや知識や、それに基づく選択肢を持つことができるのかが大事。

でも、不思議なことに事後のことを強調する人が日本ではとても多い。「レスキュー能力があるか否かが、ガイドであるかないかの差だ」とまで言う方もいらっしゃるようです。これはちょっとズレいますね。ガイド個人ではどうにもならないアクシデントなど多々あるのですから。それに、ガイドの本分は安全に山を案内し、「顧客を山から生きて連れ帰る」ことなのですから。



■ガイド業界の混沌■
「お客がつけばなんでもあり」というカオスにあるのが、今の日本のガイド業の実態。フランスの国家資格持っている江本氏にしてみれば、「勘弁してほしい」と嘆くのも無理ないことかと思います。

一般ユーザーからみれば、賢く&注意深くガイドを選ぶしかない、という状況です。資格自体に信を置けないのですから。また、メディアに載っているからといって良いガイドとは限りませんしね。Backcountry Riding をされる方が行えるRisk Hedge は、ブログやサイトをよく見て、どのようなタイプの方なのかを見抜くことでしょうね。

これまでの経験でいえば、クライミング中心でなおかつ体力&スキル自慢のテイストが匂ってくる古典的山屋体質の方は、Risk に対して「オレの感覚」という話になってしまいがち。人間的には面白くて、体力もあって、いい人であったりはするのですが、自然現象のHazard 認知について、個人的な感覚でやられてもちょっと困りますしね。

一方、snowboard などのプロライダーからバックカントリーガイドを始めている人たちは、自分を大きく見せようと自己宣伝するタイプが多い。自分を大きく見せるのに役立つものは何でも利用しようとしますね。山岳のリスクもその一つ。また、ローカルライダーであることを無意味に強調する。

たとえば「最近は山の怖さをわかっていないライダーが増えているから、事故の可能性が高まっている」と専門誌で嘆いてみせるといった感じですね。残念ながら、事故はほとんど経験者が起こしているのですが・・・・・・。


■ひとつの変化そして指針■
Backcountry Riding の世界で最大のRisk である雪崩については、その教育システムはカナダがとてもよく整理されています。カナダにはCanadian Avalanche Association という非営利団体があり、それを行っています。この何年か、日本では日本雪崩ネットワークという団体がCAA と提携してprofessional course を開催しています。

professional course の入口であるレベル1が募集開始されるようなので、紹介しようと思いましたら、既に、片方のコースは定員に達したようです。これは、ひとつの良い変化なのでしょうね。優れたeducation program を求めている人がいるということなので。

日本雪崩ネットワークのレベル1は、現在の日本の中ではもっとも良いプログラムだと思いますが、これはprofessional のbasic course ですから、早く次のステップであるレベル2の開催が望まれるところです。江本氏が少し書かれている状況判断における人的要因について、非常に良いプログラム化がなされている、と知人のカナダ人が言っていました。

日本のように、山岳エリアの気象や雪崩の情報がない状況では、カナダのような教育システムのほうが合っているのは明らかですので、雪崩については日本雪崩ネットワークが一つの指針となりうるだろうと思います。ただ、山岳ガイドに求められるスキルは多様ですから、他に要素については、非常に前途多難であるので、なかなか厳しいのですが・・・・・・。

 
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