白馬大雪渓の事故
北アルプス白馬岳の地形の変化を1997年から研究している専修大の苅谷愛彦(よしひこ)准教授(42)=地形学=が20日、大雪渓の土砂崩落現場を調査し、土石流が発生した過程について、「豪雨で大量の沢の水が流れ込み、堆積(たいせき)していた礫(れき)や砂が“かゆ”状になって崩れ落ちた」との見方を示した。
苅谷准教授によると、大雪渓周辺はU字形の地形で、硬い岩盤の上に礫などが積もっており、現場を含む斜面は落石も起きやすいところという。現場周辺には沢が流れ込んでおり、豪雨の際には土石流の発生する危険性が高く、昨年7月にも大規模な土石流が発生している。
苅谷准教授は、昨年7月のケースは、上流で土石流が発生し、周囲の土砂を巻き込んで広範囲にわたったのに対し、今回は土石流の長さが100メートルと短く、斜面の比較的低い位置から局所的にそげ落ちた形と分析。斜面の一部が崩れ落ちずに残っているとみられることから「再び天候が悪化すれば、2次災害の起きる危険性がある」と指摘している。(強調は引用者による)
どうやら2005年8月の杓子岳側からの大規模崩落とはメカニズムが異なるようですね。豪雨とそれに伴う、
同じ中日新聞の記事には、ガイドの判断について疑問を呈す声がいくつか載っています。記事タイトルも「『引き返すべきだった』 白馬岳崩落 地元の関係者、沈痛」というものです。
山岳ガイドの野間洋志さん(35)ら2人が犠牲になった白馬岳大雪渓で起きた土砂崩落事故。地元の山岳関係者からは、悪天候は十分予想できたとし、「引き返すべきだった」との声が上がった。
「日本海から寒冷前線が下りてきて、局地的な豪雨や雷は予測できた」。白馬岳に詳しい山岳ガイド歴25年の倉科(くらしな)光男さん(58)は指摘する。
倉科さんは、崩落が起きた19日、数時間後には荒天になると予測し、午前7時半に自らガイドを務めるトレッキングツアーを中止。猿倉で登山客らに引き返すよう助言し、予定を変更したグループもあったという。「気象情報をしっかりつかんでいれば、防げた事故ではなかったか」。倉科さんは沈痛な表情を浮かべた。
野間さんら2人が宿泊先の白馬尻小屋をいつ、どういう判断で出発したかは分からないが、19日午前10時半ごろ、崩落現場の下方で登山中の姿が目撃されていた。白馬岳は早朝から雨が降りだし、国土交通省の雨量計によると、午前9時から10時までの1時間に24ミリの強い雨が降った。
北アルプス北部地区山岳遭難防止対策協会(遭対協)の石田弘行さん(62)も「朝から雨で天候が荒れることは予測できた。常識的にみて引き返すべきだった」。
捜索活動を指揮した同遭対協の降籏(ふるはた)義道さん(60)は「雨が降っていれば視界も悪い。土砂崩落は予期しなかったと思うが、無理しないでほしかった」と惜しんだ。
メディアは「地元に詳しい・・・」という枕詞が好きですが、寒冷前線が南下しつつあり、それに伴って局所的な豪雨があるのは、天気に興味ある山が好きな人であればわかっている話かと思います。
記事では「引き返すべきだった」というコメントが多いのですが、後出しジャンケンに感じます。降雨と
むしろ、今回の事故原因である
当事者がお亡くなりになっている状況では、この問いは不明のまま残ることになるかと思いますが、おそらく、そこが事故を自分のものとして理解するには一番大切であろうと思います。
今年は、雷なども多く、事故も発生しておりますし、気象現象が強くでる傾向にあります。参考に「チーム森田の“天気で斬る!”」の8月19日の頁をリンクしておきます。寒冷前線の南下に伴う注意喚起が記載されていますし、朝8時の時点での落雷記録があります。
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天候状況を記述している報道があったので追記メモしておく。毎日新聞からの抜粋。
白馬岳崩落:2遺体発見 「無事で」…祈り届かず /長野
8月21日13時1分配信 毎日新聞
19日午前5時半に3人パーティーで入山した東京都北区の私立学校教員、樋口雅夫さん(44)は「雨のひどさなどから、下山を決めた。登山道は川のような状態で10メートル先で小規模な土石流や落石も目撃した。地盤はかなり水を含み、危険だと感じた」と話す。20日午前、猿倉登山口から下山した大阪府高槻市、公務員の石田善紀さん(58)は「大雪渓を通り、栂池に向かおうと思っていたが、雨がひどく引き返した。19日の午前10時半ごろはどしゃ降り状態だった。視界も悪く、10メートル先がやっと見えるほどだった」と説明した。
ステレオタイプなコメントもあっったので、それもメモしておく。
崩落事故を受け、白馬村は大雪渓ルートの現場付近の登山禁止を知らせる立て看板を設置。バスやタクシー会社には、登山客に現状を説明するよう求めたほか、現場付近の山小屋には職員を派遣、注意喚起を図った。崩落事故について20日会見した白馬村の太田紘煕村長は「(亡くなった方は)お気の毒で、あってはならないこと。登山に危険はついて回るが、十分注意して登ってほしい」と厳しい表情を浮かべた。
事故があってはならないのであれば、山を閉ざしたほうがいいし、山で観光立村など考えないことだ。「あってはならない」という言い方はいい加減やめたほうがいいと思う。
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さらに追記、苅谷愛彦氏は「土石流である」と発言していない事実が判明したので、記事内の用語を「土砂崩落」に書き換えた。また、タイトルから「土石流」を削除した。(8/25)